田中一馬ブログ

特産松阪牛と但馬牛

『世の中には2種類の松阪牛しかいない。
          特産か、それ以外か。』

国内では最も有名な松阪牛。その松阪牛の4%しかいない特産松阪牛って知っていますか?

「特選」ではなく「特産」。
その言葉の持つ意味は特別な産地です。

一般的に牛肉はA5-12など、見た目の格付けで評価されます。
それは松阪牛であっても同じ。

しかし、特産松阪牛だけは違うのです。

素牛となる牛の種類と産地が特産松阪牛の絶対条件。

松阪牛となるべき子牛の買い付け先が、松阪牛の最高峰を作っている。

それって、ちょっと面白くないですか?

特産松阪牛と但馬牛

特産松阪牛を知るためには「ある牛」の存在が欠かせません。

その牛が但馬牛(たじまうし)

全国どこで生まれた雌子牛であっても、黒毛和種であれば松阪牛の資格を持つことはできます。しかし「特産」を名乗れるのはその中でも兵庫県産の但馬牛だけ

そこには松阪牛のルーツが大きく関係しています。

江戸時代。兵庫県北部(但馬地域)の養父の牛市で飼われた但馬牛の雌子牛は、紀州で1~2年農耕用に利用されながら調教を受け、「役牛」として育てられていました。

但馬牛は大阪城建築の際に豊臣秀吉から武士の位を与えられるほど、強健で扱いやすく、各地で役牛として活躍した牛。
この紀州で調教された2~3歳の但馬牛は松阪に運ばれ、「新牛(あらうし)」として重宝されます。
やがて明治になり牛肉の需要が増えると、農耕用だった新牛の中から大型の牛が選ばれて肥育されるようになり、松阪牛の名声は全国へと広がっていきます。

それが松阪牛の起源。

但馬牛、そして新牛という成熟した牛の肥育が、900日を超える長期メス肥育「松阪牛」を作ってきたのです。

第70回と歴史のある松阪牛共進会も特産松阪肉牛共進会も特産松阪牛のみに限られた大会なのだ。

しかし但馬牛は美味しさという特徴を持つ一方で、一般的な黒毛和種に比べ肉量が取れず、長期間の飼育が必要となる「飼いにくい牛」でもあります。
その利益率の悪さから、現在松阪のほとんどの農家さんでは特産松阪牛の飼育はされていません。

確かに但馬牛を使わず、九州や北海道から大型の黒毛和種を導入する方が経営としては得策なのかもしれないし、なにが正解かはそれぞれの農場によって異なります。
ただ、そんな状況下でも一部の農家さんでは今でも昔ながらの但馬牛を使った松阪牛(特産松阪牛)が生産されている。

そこには儲けという言葉だけにおさまらない、日本一と称される牛肉を生産するプライド。そして食べて本当に美味しい牛を作りたいという、肉牛に対する哲学が見える気がしています。

「但馬牛は美味い。」

その思いがあるからこそ、こんなにも手のかかる特産松阪牛が今もなお続いているのだと思うのです。

但馬家畜市場では100万円を超えるメス子牛たちが松阪へと旅立っていきます。

特産松阪牛とGI(地理的表示保護制度)

この特産松阪牛は但馬牛、神戸ビーフに続いてGI(地理的表示保護制度)認証もされています。

GIとは国が知的財産として保護するために認定した地域ブランド。2015年からスタートし、初年度に但馬牛と神戸ビーフ。その2年後に牛肉では3番目に特産松阪牛が認定されました。現在は8点の牛肉が認定されています。 ※()内数字は認定番号

2015年 (2)但馬牛、(3)神戸ビーフ
2017年 (25)特産松阪牛、(26)米沢牛、(28)前沢牛、(55)宮崎牛、(56)近江牛、(58)鹿児島黒牛

少し長いけど、この特産松阪牛の公示ページを読んでもらうと特産松阪牛のことがよくわかると思う。

特産松阪牛

特産松阪牛は兵庫県で生まれた黒毛和種の未経産雌牛を12ヶ月齢に達するまでに平成16年11月1日当時の22市町村の区域内以下「生産地という。)に導入し生産地のみで900日以上肥育しかつ生産地における肥育期間が最長かつ最終である最も伝統的な最たる松阪牛を称するものである

特産松阪牛は古くから兵庫県で生まれた未経産の雌牛だけを生産地で他産地よりも長い期間肥育し特産松阪牛の枝重は雌牛の全国平均と比較して約70kgも少ないがその兵庫県産雌牛が故の増体面の不利性を補って余りあるほどに肉質が探求されてきた長い歴史の中で特産松阪牛の特徴であるキメ細かなサシと甘く上品な香り人肌で溶ける脂質に由来する最高の食味が今日の評価に至っている

これらのことは特産松阪牛が900日以上もの長期に渡り生産者の手で1頭1頭手塩にかけ肥育していると言われる所以であり昔から特産松阪牛は柔らかく脂がとろけるような舌触りと形容されてきたことを説明する根拠となっている

特産松阪牛はそのキメ細かなサシと食味は抜群であるものの増体面の効率に劣る兵庫県産素牛を長期肥育するという不利性は否めないが長期肥育に耐えられる剛健な牛を厳選し黎明期より確立した長期肥育の技術を末永く伝承していくため優良素牛を広く全国から導入する今日にあっても産地として志向する最たるものとして兵庫県産の雌子牛を導入し長期肥育する特産松阪牛の飼養の継続が強く奨励されてきた

多くの他産地では肉質等級等によってブランド牛として差別化しているのに対し生産地では多くの生産者がこの特産松阪牛を飼い続けることで特産松阪牛たる技術を伝え特産松阪牛だけが出場できる松阪牛共進会での栄誉を目指し切磋琢磨し続けることでさらにその技術を高め品質維持に繋げている

これらの非効率とも言える独自の技術伝承方法が高いブランド価値の裏付けとして評価されている

生産地では長年雌の子牛に特化した長期肥育の技法により育てた特産松阪牛を消費者に安心な食材として提供するため松阪牛関係団体で構築した農家情報をはじめ牛の血統飼養管理情報と畜情報生まれてからの日数等を整備し消費者がより多くの情報を得ることができることとなっている

平成26年度の松阪牛の生産状況は出荷頭数6,951頭現在の登録数は11,080頭となっておりこれらすべての個体情報を徹底管理している

中でも特産松阪牛の出荷は239頭と少ないが松阪牛の生産者の中でも1頭でも兵庫県産の雌子牛を導入し特産松阪牛に取組む生産者を特産松阪牛推進農家として認定し3年間に導入が確認できなければ認定を取り消すなど特産松阪牛の長期肥育の伝統を継承することでその技術が大いに活かされ特産松阪牛の出荷頭数から格付割合を見るとAB5等級AB4等級が約83%と高い格付等級の特産松阪牛が作り出される

今も伝統を継承し続けることで現在でも数ある和牛ブランドの中でトップブランドの評価を得ている

松阪牛でも特選松阪牛でもなく「特産松阪牛」。

それは国が保護すべきだと認定するほど、歴史のある牛肉だって話なんです。

(※GI(地理的認証制度)から見た牛肉と但馬牛の歴史については過去にブログにしました。よかったらこちらも見てくださいね。)

GI(地理的表示保護制度)から見る、牛肉と但馬牛の歴史。

特産松阪牛を知るにはこの本を読もう!!

そんな特産松阪牛を知るには食べるのが一番です!!
でもね、その上で僕が猛烈にお勧めしたい本があります。

松本栄文著『SUKIYAKI』

牛の誕生からすき焼きまで。

但馬の繁殖農家、松阪の肥育農家、精肉店、食卓、、、特産松阪牛に関わる人たちの思いが凝縮された一冊です。
和牛って単なる霜降りの牛じゃないんだって、人の営みの中で作り上げられたものなんだって、食べることに対する日本人の命の向き合い方が本当に素敵だなって、僕はこの本を読んで思いました。
現在絶版ですが古書店や図書館で是非探して読んでみてほしいな。

和牛、そして但馬牛という在り方を、松阪牛は伝え続けてくれている。

松阪に行った際には「特産松阪牛」をぜひ食べてみてほしい。
東京なら銀座吉澤がオススメだよ。

嗚呼、また肉食べたくなってきた。。

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書いている人

しゃべらないけど発信はマメ 田中一馬(カズマ)

1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。
小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。
2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。
2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。
好きなものはカメラ、カレー、コーヒー、純米酒。

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