最終更新日2020.6.30 18:25
牛肉生産は食べる人までを含めたバトンリレーだと思う
最後までしっかり餌を食べきった肉牛は美味い。
品種や血統。餌の内容や水。月齢に性別。
お肉の味を決める要素はたくさんある。
でもそれって実は確率論なんだよね。
牛は1頭1頭違う。豚や鶏と比べて個体差の大きい家畜だ。
A5でも脂に味のない牛もいるしA3でも美味い肉はたくさんある。メスより美味しい去勢牛だっている。月齢が行ってても美味しいとは限らない。
そんな牛と肉たちを今まで見てきて思うのは「しっかりと肥えた牛は美味しい」ってことだ。
しっかりと肥えた牛は美味しい
しっかりと肥えるってことは「最後まで餌を食べ続けてくれる牛」だってこと。
牛は巨大な第1胃で微生物が分解した繊維を消化吸収して大きくなります。牛の体調や気圧、餌の量や内容で第1胃の環境は簡単に変化し、小さな微生物たちは環境の変化についていけず死んでしまう。そうなると牛は餌を食べ続けることができなくなります。牛を飼うって同時に微生物を飼うことでもある。だから大きな体でも実はめちゃくちゃ繊細な動物だったりする。
最後までしっかり餌を食べ続けるってことは暴飲暴食させるってことじゃないんだよね。牛自体が健康でそれを維持できるよう常に人が関わるってことでもあるんです。
例えば僕たちのような繁殖農家は強い子牛を産んでもらえるように母牛の管理を大切にしています。体調や栄養管理だけではなく暑熱ストレスなども胎児の能力に大きな影響を与えることが科学的にも証明されている。だからこそ最も大切なのがお母さんの管理。
そして約10ヶ月かけてようやく子牛が生まれたら、まずは病気をさせないことです。その上で丈夫でしっかりと餌を食べられる胃袋を持った子牛に育てていきます。この時期は穀物よりも牧草がメイン。ステージによって牛の飼い方は全く異なります。
こういった一つ一つが「最後まで餌を食べ切ってくれる牛」に向けてのアクションなんだよね。
僕達が8ヶ月ほど飼育した子牛は家畜市場で肥育農家にバトンタッチ。そこから2〜3年かけて肉牛になり牛肉になっていきます。
しっかり餌を食べて美味しい牛肉となるように僕達は牛を飼っている。
牛肉生産は食べる人までを含めたバトンリレーだ
「子牛を販売して収入を得る。」
それだけを考えると繁殖農家としての仕事は子牛市場までなのかもしれない。
でも本当はそうじゃないんだよね。
僕たちは食べてくれる人が喜んでくれるために牛を飼っている。綺麗事でもなんでもない。そうじゃなきゃ続かないもの。
2頭が1頭になるとなんか寂しいね。美味しく食べることが牛への供養って考えもある。でも僕は少し違う。死んだ牛に出来ることなんて何一つない。生きている間に何ができるか。それだけだ。その先は食べてくれる人に何ができるか。それだけだ。情は当然ある。だからこそ視点を間違えてはいけないと自戒。 pic.twitter.com/Gj2p93u8bg
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) July 1, 2019
僕の場合は肉の販売もしてるからそんな気持ちが強いのかもしれない。
また、削蹄師として様々な現場で我が家から嫁いだ牛にも会うことができる。それも大きい。
久しぶりの田村牛。40ヶ月齢でも餌を食べきる牛を目指したい。いつもいつもそう思うけど、中には迷惑をかける牛も出る。。健康でゆとりがあり能力の高い牛。言うのは簡単だけどね。全てが全ては至難。でもこの子には期待してる。2年後に五反田の焼肉しみずとかで再会したいな。その前に削蹄で会うね! pic.twitter.com/0ZiOgfqRyp
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) September 12, 2018
今日は東京で大人気の田村牛の削蹄でした。我が家生まれの牛の蹄も切って来たよ。自分の育てた牛を食べてもらうのもいいけど、こうやって殆どの子牛は他の匠の手で肉になる。それもまた牛飼いの楽しみなのです。削蹄師然り。長い期間をかけ、たくさんのプロの手を経て作られる。それが和牛なのです。 pic.twitter.com/dfqtbvTwcU
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) April 6, 2020
我が家で生まれた丸菊姫に会ってきました。めちゃくちゃ気性が荒いらしい笑。こうやって再会できるのも削蹄という仕事の魅力。前見た時よりも良くなってました。来月出荷。良い肉でありますように。 pic.twitter.com/9atJiyXneG
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) April 16, 2020
今日もツメキリです。買ってもらった牛を見るのが削蹄の楽しみでもあるんだよね。本当に良い環境だなって思う。この子は牛の力を目一杯引き出してもらえた。見てわかるくらいしっかりと肥えてます。食べてみたいくらい楽しみだな。。来月くらいには出荷かな?あと少しだね。 pic.twitter.com/5vjOHDZv3w
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) June 19, 2020
我が家生まれの牛がバリバリの肉牛になったと聞き枝肉を見に行ってきました。BMS9。A5ランクの神戸ビーフ。でも本当はそんな言葉じゃ何にも見えない。ランクじゃなくて牛と肉なんだよ。良い牛になって、割ったら良い肉だった。生産者としてこれ以上の事はない。たくさんの人に喜んでもらえますように。 pic.twitter.com/C3vrz0Ne7G
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) June 28, 2020
人工授精師、獣医師、農協、削蹄師、餌メーカー、農機メーカー、工務店、運送業者、食肉センター、保健所、登録協会、行政、肉屋、そして僕たち繁殖農家や肥育農家等々。長い年月を多くのプロの手を経て和牛は食卓に届けられる。
でも実はそれだけでは成り立たない。
牛肉生産は食べる人までを含めて初めて成り立つバトンリレーなんだと思う。
だからこそ見れる限りを最後まで見届けたいと思うんだよね。
食べる人の笑顔までね。
あ、そうそう。お世話になってる肥育農家さんがクラウドファンディングをしてます。
期限は今日までなんですが一読して応援いただけたら嬉しいです(👉こちら)
お世話になってる太田畜産・太田家さんのクラファン。是非一読してほしいです。兵庫県No. 1の牧場が出す神戸ビーフのロース。最も但馬牛の美味さが伝わるロース。今こそ日本の和牛の最高峰を食べてもらいたいな。僕も大好きな太田畜産の神戸ビーフ。よろしくお願いします。 https://t.co/e65FtBrCbb
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) May 29, 2020
少しでも畜産業界の思いが食卓まで届きますように。