最終更新日2019.1.8 16:19
畜産とは命を守る仕事ではなく、命を届ける仕事だということ。
「あんな所に牛舎あったっけ?」
疲れてる時によく見る夢。
壊れそうな牛舎に近づきながら、そこに牛を入れていた事を思い出す。
「やばい、いつから行ってなかったんだ。。。」
押しつぶされそうな気持ちで牛舎に入ると繋がれて餓死した牛たちが。。。
そんな夢。
ちなみに現実は1年半事故ゼロを継続中。
これ自慢っす。
それでもこんな夢を見る。
死なせないなんて軽々しく言えない
冒頭の内容をSNSに投稿すると、何人かの畜産農家から「全く同じ夢を見る。」とコメントを頂いた。
少し驚いたがやっぱりなと思った。
牛飼いは不安との戦いだ。
朝牛舎に行くのが怖いなんてことは、当たり前のようにある。
命に絶対などない。
僕だって自分がいつ死ぬのかはわからない。
不摂生で病気になることもあれば、先天的な疾患や交通事故だって。
寿命なんていい加減な言葉だ。
自分のことですら分からないのに、他の命を死なせないなんて軽々しく言えない。
出来ることは向き合うくらいのこと。
例えば出産。
病気ではないので基本的に人の手は要らない。
勝手に産むのが当たり前。
でも毎回牛ごとにケースは異なる。
当たり前を疑うのも仕事。
この子は胎盤が早く剥がれて来た。
子宮小丘が出てきた。胎盤が剥がれてきているサインです。出血はしてないからまだ大丈夫。でも急がなくちゃ子牛が窒息する。手を入れると前足と頭をすぐ確認。蹄の間を強く抓ると反応がある。生きている。自然分娩でも行けそうだけど、一気に引っ張り出す事に。リスクは叩く。事故ゼロ継続中。 #牛ネタ pic.twitter.com/DB8i26MzTH
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) April 18, 2018
逆子や
あぶねーーー!!逆子でした。気づいてよかったぁぁぁーーー!!!予定日より早かったので子牛も小さく、するりと出てくれました。あと4日で子牛の死亡事故ゼロが17ヶ月目に入る。偶然に助けられてる部分は多いけど、全部味方にして進んでいきたいな。 pic.twitter.com/POGb7QNBJy
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) February 25, 2018
親が舐めずに低体温で仮死状態になることもある。
2017年も最後まで気が抜けない。。。朝牛舎に行くと産室の中で羊水がカピカピに乾いた子牛がいました。親が舐めてない。。初産の場合たまにあります。デジタル温度計で体温を測ると29.7℃。平熱よりも10℃も低い。当然即風呂です。心臓は強く動いているので大丈夫。2時間じっくり混浴します。 #牛ネタ pic.twitter.com/EIFSFZ8Bqd
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) December 30, 2017
但馬牛は弱く、普通の黒毛和種以上にアレルギーが起きやすいし。
焦った。陣痛じゃない。ペニシリンショック。風邪の治療で打ってもらった抗生物質でアレルギー反応が出た。人でもあるよね。但馬牛の場合は他の黒毛和種で反応が無い組み合わせでもアレルギーが出ることが多いそうだ。やっぱ弱いな。血が濃くなりすぎて和牛の常識が通用しない。どんどん難しくなる牛。 pic.twitter.com/XKLt78Xw34
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) April 19, 2018
遺伝的な要因もたくさん抱えてる。
去年市場で買った子が餌を食べなくなった。2ヶ月後には出産予定の育成牛。糞もあまり出ない。但馬牛は腸管を固い脂肪が締め付ける脂肪壊死症が多い血統。牛の癌みたいなもので遺伝要因が大きい。もし腸が閉塞すると助からない。ただの食滞ならいいけどな。。出来ること出来ないこと。ざわざわする夜。 pic.twitter.com/UtuEZHGO5P
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) April 14, 2018
変わり続ける牛、変化する病気、思いもよらない事故、流産や死産。
これらは人の世界でも同じだ。
命を届ける仕事
様々な媒体で発信していると、「動物が好きなのになんで殺すんですか。」といった質問をよくもらう。
その殆どは頭ごなしの断罪なんだけど、好きだからこそ病気をさせないように殺さないようにと苦悶するんだよね。
最も牛に向き合っているのが牛飼いなんだと思っている。
1年半事故がゼロであっても、安泰だなんて思ったことはない。
絶好調の時も悪循環にはまった時も、同じような悪夢は見る。
死なせないというのは人の範囲を超えている。
それでも死なせないようにしたい。
命を守り屠畜する。
このことに矛盾を感じないのは、僕ら畜産農家が自分の仕事の意味を知っているからだと思う。
畜産とは命を守る仕事ではなく、命を届ける仕事だということ。
届けるって難しい。