最終更新日2019.1.8 16:19
それでも子牛の死亡事故ゼロを目指したい。
2016年10月30日の朝。
産室の中で羊膜をかぶったままの子牛が冷たくなって死んでいた。
予定日までは順調。産歴もある親牛だったので安心していたが結果は死産。死んででてきたのか、出てから死んだのかはわからない。
やるせない気持ちだけは覚えている。
流産死産、先天的な異常、下痢や肺炎、物理的な事故など、様々原因で子牛は死亡する。
一般的に年間5%の事故率であれば優秀で、平均すると1割の事故があると言われる和牛繁殖。実は僕は7年前に事故率30%という状況に陥ったことがある。当時の僕はこのことをブログに書いたこともあって、「あそこの牛は危険だ」と何年も言われる結果を自分で招いた。
事故と風評とでギリギリの経営の中、「人よりも高い牛を作って浮上したい。。。」という気持ちは非常に強かった。
でもその気持ち以上に、事故ゼロの牧場を作りたいという気持ちが圧倒的に大きかった。
そもそも『決して死なせない』なんてことは僕の力量を超えている。
そんなものは神の世界で、僕は我が子や自分の命ですらコントロールできない。
それでも偶然も味方につけながら「強い子牛」を生産できるように意識はしてきた。
(ブログ【大きい子牛よりも強い子牛。子牛の能力は母牛の管理から。】)
そして2016年10月30日から今日まで、1年7ヶ月間流産死産を含む子牛の事故ゼロを継続してきた。
でもやっぱり難しい。1年7ヶ月ぶりの事故はまたも死産だった。
今回のブログ記事は誰かの役に立つものではない。
僕の備忘録だ。
備忘録、5.6の死産
5月28日が分娩予定日の育成牛。4月の上旬からエサを食う量が減ってきた。育成は分娩前に餌食いが落ちることがよくある。
「でも、それにしては早すぎるな。。。」
そう思っていた矢先。
4/14、餌食いがピタッと止まった。
直腸検査で脂肪壊死は見つからないものの糞の臭いから脂肪壊死の疑いが大きいと判断。
食滞と脂肪壊死の治療を同時並行で行うことにする。
https://twitter.com/tanakakazuma/status/985093873255854085
育成は産むまで繋ぎたくなかったんだけど、スペースの関係で2ヶ月前に繋ぎ牛舎に移動。少しブラッシングをした。
モッサーーーーーーーー!!! #牛ネタ #冬毛 pic.twitter.com/CwBzs2VsLn
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) April 15, 2018
4/15、出なかった糞が少ないながらも出るように!!「ただの食滞だったのかも。。。」かなり安心した。念のため脂肪壊死の治療だけは継続することにした。
うんこ、出ま、っし、た!!!
大事なことなのでもう一度。
うんこ、出ま、っし、た!!!
まだいきむけどね。この調子なら行けそうな予感がします。#脂肪壊死と呼ばれた子 pic.twitter.com/nCW201yKok— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) April 15, 2018
4/19、再び餌の食いが止まるので診療してもらう。熱が少しある。食滞と合わせて風邪の治療もお願いした。家に帰ろうとした頃に牛がバタバタと暴れ出す。抗生物質でのアレルギー反応だ。
但馬牛は他の黒毛和種では反応が出ない組み合わせでもアレルギーが出ることが多い。
閉鎖育種によって血が濃くなりすぎた弊害がここにも出ているのかもしれない。失禁するほどの腹痛。しかし妊娠しているためデキサは打てない。他の消炎剤を打ってもらい少しだけ落ち着いた。これ以上できることは今なはい。
焦った。陣痛じゃない。ペニシリンショック。風邪の治療で打ってもらった抗生物質でアレルギー反応が出た。人でもあるよね。但馬牛の場合は他の黒毛和種で反応が無い組み合わせでもアレルギーが出ることが多いそうだ。やっぱ弱いな。血が濃くなりすぎて和牛の常識が通用しない。どんどん難しくなる牛。 pic.twitter.com/XKLt78Xw34
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) April 19, 2018
翌日抗生物質を変えて治療するが、同じようにアレルギーで腹痛を起こす。
胎児優先で治療は中断。
4/27、分娩まで1ヶ月。この時点で餌を再び食べなくなる。「おかしい、やっぱり脂肪壊死がどこかにあるのでは。。。」そう思いながら「最悪子牛だけは助けられそうだ。。」という思いもあった。食べなくても点滴で凌げる。せめてあと2週間もってくれれば分娩はできる。
分娩予定日まで30日。市場で買ったこの子が肺炎持ち脂肪壊死持ちアレルギー持ちと今になって出てきた。まだ初産なのに。。無事にお産が終われば、シビアな判断も必要だ。それも僕の仕事。牛を飼えば色んなことがある。もし屠畜になっても事故だけは防ぎたいな。エゴだよなと思う。 #牛ネタ pic.twitter.com/fQQ8ygE3cu
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) April 27, 2018
5/5、陰部から出血。分娩予定日23日前。まだ早すぎる。異常事態だ。出すしかない。
しかし陰部から出ているのは黒く濁った血。胎盤剥離なら鮮血だ。この時点で胎児はダメだと思った。獣医師を呼んで確認してもらう。
子牛の事故ゼロ1年7ヶ月。毎日毎日ずっと意識してきたけど、今日で途切れてしまったかも知れない。今月末予定日の育成から血の混じった粘液が出ていた。鮮血ではないので胎盤剥離ではなく既に中で死んでいる可能性が大きい。悔しいな。まだ分からないけどね。今は何もできない。今やるべき事をしよう。 pic.twitter.com/q34H3limSG
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) May 5, 2018
5/6、確認の結果やはり胎児は死んでいるとのことだった。産道を開く注射を打ってもらい自然に娩出されるのを待つことにした。今引っ張ると母体を痛めてしまう。
まだ産まない。10時間近くも陣痛でバタバタ。産道が狭いと子牛は出ない。無理やり出してもいいんだけどね。生きていれば早々に引っ張るけど、既に胎児は死んでいるので母体のペースを優先。早く出してあげたいけどな。見ていて辛い。疲れなのか僕も嘔吐と発熱でダウン。でも、このお産だけは見届ける。 pic.twitter.com/4MT857VsIt
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) May 6, 2018
陣痛から10時間経っても生まない。あまりにきつそうなので結局引っ張り出すことに。。。親牛も限界。寝た状態で引っ張り出した。
小さな雌子牛だった。
産道の狭さもあったけど、前足が折れていたから出なかったようでした。結局修復して引っ張る事に。。後産が残るからまだ10日くらいは辛いと思う。色々あった。けどよく頑張った。今はそれだけだ。とりあえず今日は休もうな。今日一日、そして270日間お疲れ様でした。救えなくてごめんね。。 pic.twitter.com/V6PPp7kMWb
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) May 6, 2018
初産のお母さん牛。もう少しで出産予定日だったけど子宮の中で胎児が亡くなっていた。死産になってしまいました。1年7ヶ月事故0もここで途切れたけどそんなのじゃない。悲しさ申し訳なさ。色んな思いが出てきて涙が出る。命に慣れることはないなと思う。でも明日からも牛飼いをするんだ。
— 田中あつみ 但馬牛飼い精肉店【田中畜産】 (@tanatiku) May 6, 2018
記録が途切れたことなんて正直どうでもいい。
1年7ヶ月の8割はたまたまだ。
死なせないなんて傲慢な言葉だと思う。
それでもまた今日から死なせない日々を重ねていこうと思う。
おはもー。今朝牛舎に行くとしれーっと産んでました。初乳もちゃんと飲んでお母さんのおっぱいはぺっちゃんこ。一気に心が満たされた。今日からまた頑張ります。うん、頑張ろーーー。 pic.twitter.com/5QOia7rgLc
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) May 7, 2018
また今日も新しい命が生まれた。