田中一馬ブログ

親子関係は双方が育んでいくもの

こんにちは。

但馬牛繁殖農家のお肉屋さん、田中畜産の田中一馬です。

ちょっと前まで我が家はお産ラッシュ。

和牛繁殖の場合は親子一緒に飼育するケースが多いんです。

粉ミルク代がかからないってこともあるけど、やっぱり母乳は偉大です。

代用乳ではまだ母乳には勝てない。

こうやって親子一緒にいる姿ってすごく微笑ましい。

でもね、親子一緒なら幸せかといえばそんなケースばかりではない。

育児放棄をする親牛に人が出来ること

先日初産の親牛が分娩しました。

初産の場合生まれた子牛を攻撃したり無視したりと、育児をしないケースがあります。

ひどい牛になると子牛を突き殺したり、踏んでしまって内臓破裂で死亡させてしまう事もある。

こういった状態になると牛たちだけでの親子関係の回復は不可能です。

この時、人がサポートにはいることで関係性を修復することが出来ます。

その際に最も大切なのが子牛の気持ちを折らせないこと

親子の関係性を築くのはあくまでも牛同士です。

だからまずは母牛からの暴力を止めること

そうすることで子牛の気持ちを守ることが出来ます。

悪循環に入らないように

生まれたばかりの子牛は乳の位置もよくわかりません。

この段階で何度も蹴られると飲む気力を失い哺乳をすること自体をあきらめてしまう。

そうしている間に親牛の乳はパンパンに張り、乳の張る痛みと子牛に対するパニック、そして子牛の哺乳欲の低下でますます母乳を飲ますことは難しくなります。

こうなるともう悪循環。。。

哺乳とは子牛が自分の意思で吸ってはじめて成立するものです。

最初に乳を飲むサポートが出来れば、子牛の飲みたい欲求はどんどん強くなっていきます。

乳の位置も把握するので飲む要領もよくなる。

この状態になれば子牛は蹴られても蹴られても飲みに行くようになります。

飲み続けることで親牛も慣れて落ち着いてくる。

そのために出来るサポートには5つのステップがあります。

親子関係を修復する5つのステップ

1、ふりかけ作戦

分娩後に子牛を舐めない親牛でも、大好きな濃厚飼料は必死に食べます。

羊水でベトベトの子牛にフスマや濃厚飼料をふりかけると、母牛はエサを食べようと一生懸命子牛を舐めます。

ここでスイッチの切り替わる母牛が意外にいるんです。

濃厚飼料を食べる流れで、母性のスイッチが入ればしめたもの。

そのまま親子の関係性を築いていくことができます。

子牛に餌をふりかける。

こんな単純なことで親子の関係性は回復することがあります。

2、保定作戦「鼻」

ふりかけでもダメな時は親牛の動きを止めます。

まずは鼻保定。

鼻で保定すると、牛は前後に動けなくなります。

鼻保定をしっかりとすることは牛の足を持ち上げる削蹄でも基本中の基本です。

(保定がしっかりしていれば後ろ足を上げても牛は大人しい。)

鼻保定だけでも牛は意外におさまりますので試してみてくださいね。

3、保定作戦「肩」

鼻保定で前後は抑えられても左右の動きはコントロールできません。

鼻を起点にして牛は180度扇状に動きます。

その為、人が牛の肩に入り牛の動きを制限します。

肩に人が入ることで牛の動く起点が鼻から肩に変わります。

これで左右に動く牛の動きを大きく制御することができます。

(前後の動きは既に鼻保定でコントロール済み)

子牛がまだ弱い時は母牛が左右に動く動きで倒され、哺乳欲を失ってしまうパターンが多いのです。

左右の動きの制限は子牛にとって乳を飲むための大きな助けとなります。

4、クツワ作戦

鼻保定で前後の動き、肩に入ることで左右の動きをコントロールできるようになりました。

それでもまだまだ蹴る牛もいます。

こんな時は他のことに気を向けさせます。

例えば母牛が子牛を蹴ろうとしたときに背中をつまんだり声を出す。

これが意外にも効果的。

それでもダメな時には「クツワ」を使います。

これは牛の口の中に入れるもので、入れられた牛は気になってくっちゃくっちゃ噛んでしまいます。

クツワの効果は大きく、ほとんどの牛がこの段階で哺乳させることが出来ます。

①鼻保定②肩に入る③クツワを入れる④声を出すなど気をそらす。

いろいろな手を使って親牛の動きを止めることがポイント。

何度も言いますが、子牛が乳を飲むことを覚えることが大切です!!

一度覚えると子牛が蹴られても頑張って飲むようになり、その過程で親子関係ができることが多いからです。

5、究極!足持ち哺乳法

それでも駄目な親牛にはとっておきの足持ち哺乳法。

この方法で乳を飲まさなかった牛は今までいないくらいの有効な方法です。

削蹄を始めた頃、牛に蹴られることはしょっちゅうありました。

しかしそんな僕でも前足の削蹄をしているときは蹴られませんでした。

牛は基本的に両方の脚を上げることができないからです。

(本当にたま~に足上げても蹴る強者はいますが。。。)

これを哺乳に応用することで、親牛は子牛を蹴ることがなくなりました。

ロープで足を引っ張るように牛を無理やりロックするのではなく、牛の動きに合わせて脚を上げるため牛にも負担が少ないのが良いところ。

ただ牛の前脚を上げるだけ。

これでほとんどの子牛に乳を飲ますことができます!!

(鼻保定は必須です。クツワもあればベスト。)

前足を上げるときに蹴られないように気をつけて下さいね。

親子関係は双方が育んでいくもの

このようにサポートをすることで親子関係は少しずつ修復することが出来ます。

冒頭の親牛は生後4日目には子牛を蹴らなくなりました。

これは蹴られても蹴られても子牛ががんばってくらいついたから。

親子関係は親からとは決まっていません。

今回はこの子が関係性を作りました。

親子を放置することが牛にとっての幸せではないと思う。

牛が幸せになるように手を加えるのが牛飼いとしての仕事だし、それは母子分離であっても同じことだと思うんだよね。

育児放棄をする親牛との関係性は双方が育んでいくもの。

だからこそ子牛の気持ちを折らないことが大切なんです。

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書いている人

しゃべらないけど発信はマメ 田中一馬(カズマ)

1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。
小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。
2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。
2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。
好きなものはカメラ、カレー、コーヒー、純米酒。

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