田中一馬ブログ

グラスフェッドは自然な飼い方?何かを否定して成り立つ正論は続かない。

グラスフェッドビーフとグレインフェッドビーフ。

それぞれの肉質の違いって分かりますか?

先日そんなブログを書いたところ、パーソナルジムを運営されている方からコメントをいただきました。

プロテインでも、グラスフェッド牛の牛乳が原料としてもてはやされてます。

その方が自然な環境で飼育された牛の乳だから安全で栄養価が高いという触れ回りですが、本当のところは表面的な情報では分からないですね。

今回は前回のブログでは書ききれなかった『グラスフェッドと自然』という部分について書いていきたいと思います。

グラスフェッドは「自然」な飼い方?

今やオーガニックの世界ではスタンダードとなったグラスフェッド。

一昔前のグラスフェッドはゴムのように硬い輸入牛肉のイメージでした。

そのためグラスフェッドの一大生産国であるオーストラリアでも30年前から日本人向けにグレインフェッドビーフの生産がされています。

今食べている輸入牛肉の大半は日本人の嗜好に合わせたグレインフェッド。大麦牛などは有名ですよね。

その一方でグラスフェッドビーフに価値を感じる方も近年急増してきました。

価値観が多様化する現代でこれは自然な流れだと思う。

グラスフェッドが人気の理由は様々ですが、ざっくり分けると3つに集約される気がしています。

・赤身の味を楽しみたい

・オメガ3やカルニチン、共益リノール酸など機能的成分が豊富

・なんか自然で良さそう

その中でも近年、「グラスフェッドは自然でグレインフェッドは不自然だ。」と言った論調が増えてきました。

今やグラスフェッドを語るときにこの「自然」という言葉は避けて通れない気がしています。

牛舎の中で飼う肥育牛は不自然?

グラスフェッドは自然でグレインフェッドは不自然??

不自然や自然って何だと思いますか?

前回のブログにも書きましたが、グラスフェッドとグレインフェッドに明確な境界線はありません。放牧された草地であっても基本的には人が管理しているもの。管理の仕方では牛にとって害をなす牧草地も多々あります。

どれだけ放牧した環境で飼おうが、野生動物から見れば家畜自体が不自然です。

家畜として牛を見た時、グラスフェッドもグレインフェッドも僕は自然な飼い方だと思っています。ホッキョクグマとヒグマの「自然」が違うように、牛も品種によって適性は違います。そしてその牛に与える餌も様々です。

例えば同じ和牛でも、放牧することで体重を増やすことのできる日本短角種もいれば、但馬牛のように虚弱で放牧に馴染みにくい品種もいる。

放牧される日本短角種

野に放つことが自然であればこんなに楽なことはない。しかし、野生の鹿と同じ環境で飼うことは肉牛にとっての自然ではありません。人の手が入るから家畜なのです。

野生動物に自然淘汰は当たり前。

一方、家畜での自然淘汰は絶対にあってはならないこと。

だからこそ家畜にとっての「自然」とは、それぞれの牛の生理を理解し、家畜としての天寿を全うさせることなのだと僕は思うんです。

国内で生産されるグラスフェッドの位置付け

牛の種類も色々。

一方で牛が食べる餌の種類も様々です。

同じグレインフェッド(穀物飼育)でも、トウモロコシと大麦の給与では肉質も脂の硬さも変わります。

そこにフスマなどのそうこう類、大豆粕などの油粕類、稲わらなどの牧草類などなど様々な餌の組み合わせがあり、農家によってその肉の味は違ってきます。

同じことはグラスフェッドでも言えます。

与える草や土壌によって肉質が変わるのは当たり前のこと。

しかし実は国内におけるグラスフェッドの歴史は浅く、どう言った飼い方をすればどんな肉になるのかすらほとんどわかっていないのが現状です。

「買ってきた穀物を与えてないからグラスフェッド」「放牧してるからグラスフェッド」まだまだそんな赤ん坊のような状態。だからこそ僕はこの未開拓なグラスフェッドの分野に魅力も感じている。

一方でグレインフェッドはグラスフェッドに比べ肉になる頭数が圧倒的に多く、サシだけではない餌と肉質の関係についての研究も進んでいます。

日本の和牛が世界から賞賛され、和牛遺伝子が海外に流出して「WAGYU」となっても、日本の和牛と同じ肉は作ることができない現実。それは、牛を見て牛に合わせて試行錯誤を重ねてきた日本の畜産の層の厚さの証でもあります。

国内での「グラスフェッド」と「グレインフェッド」は、歴史も頭数も土台も全く違うものなんです。

『グラスフェッド=自然』は続かない。

確かに自然な飼い方というキーワードは販売をする上で便利です。

しかし自然や不自然といったイメージだけの論調は、国内のグラスフェッドの発展を阻害する大きな要因になっている気がして仕方ない。

畜産とは科学。

グラスフェッドとはどんなお肉なのか。

それが体系的に見えてこない限りは、自然をウリにすること自体が不自然なんだと感じています。

人の数だけ正義があるように、人の数だけ自然もあります。

自然という言葉の裏には「他は不自然だ」という言葉が隠れている。

何かを否定して成り立つ正論は長続きしない。

そろそろ「グラスフェッド=自然」というキーワードを外す時期なんじゃないのかなと僕は思う。

まだまだ伸び代はあるんだからさ。

但馬牛「元気」のグラスフェッド(56ヶ月齢・リブロース)

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書いている人

しゃべらないけど発信はマメ 田中一馬

1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。
小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。
2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として様々な農家の蹄をサポートをしている。
2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛を中心に長期肥育や経産肥育、放牧牛肉の生産などをスタート。
好きなものは牛肉、漫画、純米酒、ウイスキー。ここ1年はサウナにドハマり中。

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