田中一馬ブログ

なぜ日本の和牛には霜降りが入るのか。

あまり知られていませんが兵庫県北部は西日本一の豪雪地帯。

山に囲まれ集落は谷沿いに点在し、冬には2mを超す積雪。

この人や牛の交流が遮断された土地から黒毛和種のルーツ但馬牛が生まれました。

今年もしっかりと降りました。。。

雪って除雪しなきゃいけないし、建物を破損することもあるし、車は滑るし、タイヤ変えなきゃいけないし、牛舎も積雪対応の構造にしなくてはいけない。

牛飼いにとっては雪は一見いらないもの。

学校行くのだって大変です。

でもね、雪が降らないと水の問題が出てきます。

雪があるからこそ僕らの地域は山からの水が豊富に出るんです。

昔から豪雪地帯だった但馬地域は、雪があることがあたりまえ。

雪を前提に地域の暮らしは出来てきました。

そして、このような環境の中で和牛のルーツである但馬牛は飼われてきました。

霜降りは遺伝。そして、その遺伝子を作るのは環境

僕はこの何度かブログで「霜降りは遺伝だ」と書いてきました。

「霜降りは不健康な飼い方で出来るもの??」

「霜降りと赤身牛肉、どちらが美味しいの?」

「牛1頭1頭に個性があるから、お肉にだって個性が出る!!」

霜降りを入れるにはもちろん餌や飼い方も大切。

だけど霜降りは穀物を無理やり食べさせて、ビタミンを欠乏させて失明の牛を作って、ビールを飲ませて作るものではありません。

そんなことでサシが入るなら超簡単。

トウモロコシの生産量世界1位のアメリカが、霜降り牛肉をバンバン生産して輸出をしているはずです。

それをしていないのはアメリカ人が赤身嗜好だからではなく、飼い方だけでサシなんて入らないからってことなんです。

サシは遺伝能力。そしてその牛の能力を引き出すのが飼養管理。僕たちは牛の能力以上の事は出来ない。

キリンが高い草を食べるために首が伸びたり、同じ種の動物でも住む場所によって特徴が出るように、遺伝情報はその動物が住む環境に大きく影響されると僕は思っている。

象の長い鼻だって、環境に適応してきた結果。

霜降りの入る能力を持つ但馬牛は、山に囲まれた但馬地域の中だけで1200年以上も前から交配を重ね続けて生まれた品種です(閉鎖育種)。

古くは平安時代の続日本紀に「但馬牛、耕うん、輓用、食用に適す」と記されるくらい歴史がある。

黒毛和種の99.9%の祖先にあたる田尻号もこの地で生まれた但馬牛。

つまり霜降りの遺伝子って、この地域の気候風土が生み出したものと言っても言い過ぎじゃないって僕は思うんです。

田尻号(但馬牛)

 

但馬地域と但馬牛

雪が多く、山と山に囲まれた谷沿いに集落が点在する但馬地域。

小代区の大照放牧場から射添地区を見る。

牛舎から見える切り立った山と矢田川

道路も交通手段も発達していなかった時代、 険しい山と谷に囲まれた但馬地域では他の土地にいる牛との交配は困難でした。

それぞれ谷筋で作られた牛は谷ごとの特徴を持ち、その姿が植物の蔓のように代々連なっていきます。

こうやって出来た牛の血統集団を「蔓牛」と呼び、あつた蔓、ふき蔓、いなきば蔓、やいだに蔓、よし蔓など、谷筋によって特徴のある但馬牛の血統集団が形成されていきました。

その結果、意図せずではあるものの霜降りの入る遺伝子が但馬に残されていきました。

そして1991年の牛肉オレンジ自由化の時、輸入牛肉との差別化で霜降りの入る牛が求められ、但馬牛は全国の和牛の改良に使われることになります。

霜降り=高級牛肉の時代です。

但馬牛(神戸ビーフ)の枝肉市場

確かに霜降り遺伝子は偶然の産物かもしれません。

しかしその偶然は、1000年以上も一つの地域で牛を飼い続けてきた必然性から生まれたもの。

但馬は谷沿いに集落があるような地域で、大きな畑や田んぼなんてありません。棚田を耕すには小回りが利く牛が必要だったため、但馬牛は小柄で強健な牛となりました。(東北などで飼われていた南部牛は鉱山など荷物を運搬するために、大柄で力強い牛に改良されてきた。)

もしかしたら、棚田に合わせた小柄な牛を求めてきた結果、但馬牛はきめの細かい肉を生産する牛となったのではないだろうか?

雪の多くなる冬には、栄養が少なく硬い稲わらや干草を与えられていた和牛たち。牛乳を生産するホルスタインと比べ、粗食にも耐えられる牛といえます。

もしかしたら、寒い地域で質素な暮らしをしてきた和牛だからこそ、脂肪を体内に蓄える力が強く、融点の低い不飽和脂肪酸が多い牛(サシの多い牛)になったのではないだろうか?

もちろんね、何が正解かなんてわからない。

これらは全て想像の話。

ただ、霜降りが遺伝であることは間違いない事実。

そして遺伝は環境要因が作っていくものであることも事実。

放牧していたってこんなふうにサシが入るのが但馬牛です。

但馬牛「元気」のグラスフェッド(56ヶ月齢・リブロース)

だからお肉を食べる時「霜降りって不自然や。。。」って思う前に、一度「霜降りって自然が作ったものなんだ~。」って思ってみてほしい。

そしてその時に、その牛が育ってきた背景や気候風土を想像してみてほしい。

厄介な雪や、生産性の悪い棚田が世界に誇る霜降りを生み出した。

もしそうであればすごく面白いな。

そんなことを僕はいつも思っています。

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書いている人

しゃべらないけど発信はマメ 田中一馬

1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。
小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。
2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として様々な農家の蹄をサポートをしている。
2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛を中心に長期肥育や経産肥育、放牧牛肉の生産などをスタート。
好きなものは牛肉、漫画、純米酒、ウイスキー。ここ1年はサウナにドハマり中。

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