田中一馬ブログ

霜降りと赤身牛肉、どちらが美味しいの?

こんにちは。

但馬牛繁殖農家のお肉屋さん、田中畜産の田中一馬です。

牛肉っておいしいですよね!!

美味しくて、楽しくて、食卓が笑顔になれる食材。

僕は大好きです!!!!

霜降りが好き。赤身が好き。

人によって牛肉の好みって分かれます。

霜降り、A5-12、赤身、放牧、グラスフェッド、但馬牛、長期雌肥育、オレイン酸、各銘柄牛。。。

牛肉を選ぶ際にも様々なキーワードがある。

でもね、

キーワードで語れないのが牛肉の面白さです。

ついつい赤身と霜降りの2極で語られがちな牛肉。

今回はお肉の味を決める要因について、4つの視点から見ていきたいと思います。

①霜降りと赤身牛肉、どちらが美味しいの?

よくテレビなんかで「牛肉の最高ランク、A5-12です!!!」とか聞きますよね。

一方で近年、「サシの入った肉はちょっとね。。。やっぱりお肉は赤身が良いわ。。。」と言った声も増えてきました。

「どちらのお肉が美味しいかはそれぞれの好みですよね。。。」

なんてことは言いません!!!

だってこれ、どちらも牛肉の見た目の話

サシとか赤身ってだけで、牛肉の味なんてわかりません。

格付けの話

霜降りの入り具合を判断する基準に「格付け」があります。

A5-12とかA3-4とか、聞いたことある方も多いと思います。

国内で生産される牛肉のほとんどが枝肉になった状態で格付けをされ、流通しています。

(詳しく知りたい方は日本食肉格付協会のHPをご覧ください。)

この格付けで特に重要なのが霜降り度合を表すBMSナンバー

BMSナンバーは1~12まであり、サシの割合が増えるごとにその数字は上がっていきます。

(A5-12でいうところの12がBMSナンバー)

日本格付け協会HPより引用

一般的に【8~12番を出す能力を持った黒毛和種】は霜降り牛肉として販売されることが多く、【3番くらいのお肉がよく出る日本短角種や褐毛和種、乳用種など】は赤身の美味しい牛肉として販売されるケースが多いんです。

目利きと見た目は違う。

で、でもね、、、、ちょっと待って!!!!!

BMSナンバーとはお肉の流通がスムーズに動くように作られた基準。

霜降りが良く入っているから美味しいとか、赤身が多いから美味しいとか、それって全く別の話。

 

先日のTwitterにてこんなことをつぶやきました。

目利きと見た目は似ているけど非なるもの。

ほんとそう思う。

見た目とはあくまで目利きの一つの材料でしかありません。

例えばこちらは以前僕が肥育した「多香音」という牛。

BMSは10番でした。

一方こちらはBMSは9。

多香音より格付けではワンランク下の枝肉です。

しかも一番メインのロース芯にシコリがある。

(シコリは脂肪のように見えて硬くて食べられない場所で、これがあることで枝肉価格は大きく下がります。)

だけどね、枝肉単価はこちらの方が高かったんです。

実際に枝肉を見比べると、多香音の枝肉は張りがなく薄い。

脂肪の質も固めです。

格付け(見た目)は大切なモノサシ。

だけど、一つのモノサシだけで語れるほど牛肉って浅くない。

「霜降りと赤身、どちらが美味しいの?」っていう問いかけは、「長袖セーターとポロシャツ、どちらが着心地良いの?」って言うようなもの。

見た目だけで美味しさなんてわかりません。

霜降りにもいろいろな霜降りが、赤身にもいろいろな赤身があるんです。

②部位による見た目と味の違い

赤身や霜降りと言った牛肉とは、そもそも牛の筋肉

動かす場所によって筋肉の質は当然変わります。

例えば同じ個体でもリブロースにはしっかりサシが入りますが、良く動かすスネやネックは赤身です。

このように筋肉の役割によって、肉のキメも味も硬さも千差万別なんです。

そして、

同じ赤身であっても、筋肉の場所で味は全く変わってきます。

これは体を動かす時の筋肉の使い方やそれに応じた筋肉の質の違いからくるもの。

部位によって筋肉の作りが違うということは、調理法も食べ方も変わってきます。

ネックやスネは焼くと固くなるため、ステーキでは食べれません。

ステーキでおなじみのヘレを煮込んでも、バラバラになるだけでお肉の特徴を台無しにしてしまいます。

牛肉とは、それぞれ個性の強い人が集まった劇団のようなもの。

硬いスネもそれは個性。

ビーフシチューにすれば煮崩れず、筋の部分はプルプルの触感が楽しめます。

ネックも味の濃い部位のため、シチューの味付けに負けずに肉自体がシチューの味となってくれる。

良い舞台を作るためには、それぞれの個性を把握することが大切です。

僕も「同じ牛でもこんなにバラエティに富むんだ。。。」って、自分の牛をカットしながら毎回感じています。

見た目ではなくお肉の特性に合わせて食べるってこと。

これこそがお肉を楽しむ第一歩です!!!

③牛が食べるものによる味の違い

一方で、牛が食べるものによっても牛肉の味は大きく変わってきます。

今月販売する「てるひさ」という牛。

出荷前の7か月間、放牧場で野草のみの飼育をしました。

木の葉を食べている「てるひさ」

痩せているくらい引き締まった牛で、お肉も真っ赤。

サシなんかゼロ。

口の中で溶ける柔らかさなんてありません。

左から2頭目が「てるひさ」の枝肉

だけど、放牧の但馬牛でしか出せない肉の味がします。

 

てるひさのサーロイン、肉に味が凝縮したような旨味がありました。

これは今までの放牧の但馬牛でも全て同じ結果だった。

見た目では分からなくても、牛が食べるもので牛の体の組成は変わる。

だから同じ放牧での牛肉でも、①タネを蒔いた採草地での放牧と、②野草地放牧では当然味も異なる。

季節によって草の種類や栄養価も変わるから、③屠畜するタイミングでも放牧のお肉は全く違うものになる。

脂肪が入らないお肉を「ヘルシーな赤身」として売るのではない。

牛の体の組成がお肉の味であり機能だからこそ、逆算をして放牧の方法も考えるということなんです。

牛の細胞は三か月単位くらいで入れ替わっている気がしています。

これは僕の感覚で根拠はありません。

60か月完全グラスフェッドで飼育した「夢」という牛を食べることが出来た牛肉アレルギーの子が、同じように屠畜前半年間放牧しただけの放牧敬産牛肉も毎年食べられるという事実。

そして、毎年毎年屠畜するお肉の味の傾向から僕はそう思っています。

だからこそ屠畜前の飼い方と牛が食べる餌って、シビアで大切だと思うのです。

牛肉に農家の味が出るのはその農家の哲学や大切にしているものが、餌という一つの形で牛肉に現れているのだと思います。

見た目には見えなくても食べるとわかる牛肉。

牛肉って面白いでしょ。

④品種による違い

これまで

①霜降りや赤身とは見た目だけの話で、実際は色々な霜降りや赤身がある。

②動かす筋肉の違いで、同じ牛でもお肉は全く別物になる。

③牛の細胞は常に入れ替わり、その牛が食べる餌が牛の体組成を作る。

と言った話をしてきました。

実は餌だけではなくもう一つ、牛の体組成を決める要因があります。

生まれ持った遺伝情報です。

グラスフェッドで飼育したブラウンスイス種のリブロース

グラスフェッドで飼育した黒毛和種(但馬牛)のリブロース

同じグラスフェッド(草だけで飼育した牛肉)でも、牛の品種や血統で肉質も味も全く変わります。

※(過去ブログ『グラスフェッドの但馬牛とブラウンスイスの肉の違い』はこちら

リンゴでいえばジョナゴールドと富士が味が違うのと同じこと。

牛も品種でお肉の味ってかわってくるんです。

黒毛和種も、褐毛和種も、日本短角種も、ホルスタインも、ジャージーも、ブラウンスイスも、ヘレフォードも、アンガスも。。。

霜降りの多い品種や少ない品種ではなく、全く別の味がする別の品種です。

部位×飼い方×血。(飼育期間とか性別とかあるけどね。。。)

この無数限にある組み合わせが牛肉の味を決めます。

 

牛肉は無限に楽しめる最高の食材

牛肉とはこの組み合わせに調理を掛け合わせることで、無限に楽しむことができる最高の食材です。

赤身や霜降りと言った見た目の側面だけでなく、

放牧や長期飼育と言った飼い方の一面だけでなく、

黒毛和種や日本短角種などの品種の顔だけでなく、

全てが掛け合わさったものが牛肉。

是非、この深くて楽しい牛肉の世界を堪能していただきたいです!!

「霜降りなんて脂っこいから赤身がいい。」そんな考え方は凄くもったいない。

色々なものを知ったうえで、本当の自分の好みって見つけられると思います。

美味しくて、楽しくて、笑顔になれる時間が大正解。

生産者としても消費者としても、僕自身はそうありたいと思っています。

色んな牛肉を、楽しんでたくさん食べてくださいね~!!!!

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書いている人

しゃべらないけど発信はマメ 田中一馬

1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。
小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。
2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として様々な農家の蹄をサポートをしている。
2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛を中心に長期肥育や経産肥育、放牧牛肉の生産などをスタート。
好きなものは牛肉、漫画、純米酒、ウイスキー。ここ1年はサウナにドハマり中。

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