田中一馬ブログ

遺伝子編集が現実となる中、牛はどこへ向かうのか

興味深いニュースを読んだ。

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CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)で有名な遺伝子改変技術を使って生まれた牛に、本来あるべきでないDNA断片が見つかったというニュースだ。

【デービスAFP=時事】
最新の遺伝子編集技術を用いて角のない乳牛や去勢された状態で生まれる子豚などの開発──農場主や牧場主にとって歓迎され得る成果──に成功したとしても、遺伝子編集された家畜を飼育小屋から食卓へと運ぶにはまだ多くの困難が残っている。(写真は遺伝子編集技術を用いた個体から生まれた牛と対象グループの角のある牛。米カリフォルニア大学デービス校で)動物遺伝学者のアリソン・バン・エネナーム氏率いる米カリフォルニア大学デービス校の研究チームは、角のない畜牛の難題に取り組んでいる。
 農場主や牧場主は、家畜の牛が仲間を角で突いたり飼育担当者を傷つけたりするのを防ぐために角を除去する。これは牛にとっては苦痛を伴うプロセスだ。
 だが、アンガスなどの特定の肉牛種には生まれつき角がない。この角のない状態に関与する遺伝子が科学者らによって特定されるとすぐ、生物工学の専門家チームは米ミネソタ州に本拠を置く遺伝子企業リコンビネティクスと協力し、代表的な乳牛種ホルスタインから採取した細胞に遺伝子改変技術を用いてDNA改変の作業を行った。
 遺伝子改変技術としては「CRISPR─Cas9(クリスパー・キャスナイン)」と呼ばれる「はさみ」が有名だが、リコンビネティクスは「TALEN」と呼ばれるツールを用いた。そして2015年、角のない雄牛の「スポティジー」と「ブリ」が誕生した。
 ブリは最終的に6頭の子牛を残した。6頭はすべてデービス校の研究農場で飼育された。
 こうした家畜の肉が、人よる消費に適しているのかを確認するためバン・エネナーム氏は、米食品医薬品局(FDA)に意見を求めた。するとFDAの科学者チームは、遺伝子編集で生まれた雄牛のゲノム(全遺伝情報)に関する公開データを用いた関連プロジェクトの作業中に、予想外の遺伝子改変をほぼ偶然に発見した。
 ■厳重な監視体制の重要性
 FDAが見つけたのは、対象遺伝子を改変するために用いるDNA断片のプラスミド配列だった。本来であれば見つかるはずのないプラスミドが牛のDNAの中に存在していたのだ。
 異質の断片がDNAに組み込まれていたという事実は、必ずしも家畜や消費者にとって危険だというわけではないと、FDAは指摘する。
 だが、FDAの動物生体工学・細胞療法部門を統括するヘザー・ロンバルディ氏は「目的外の改変が行われるならば、それは食物の組成に影響するだろうか」と問いかけた。「アレルギー誘発性や有毒性のようなものに何らかの影響が及ぶだろうか」
 いずれにしても、遺伝子編集技術の推進派が厳格な監視の緩和を強く求めている現状にあって、今回の発見は家畜に対する遺伝子編集ツール使用の厳重な監視体制を維持することの重要性を浮き彫りにしていると、FDAは説明している。
 ■性決定遺伝子
 予想外の遺伝物質の発見を受け、バン・エネナーム氏は遺伝子編集された雄牛5頭の殺処分と焼却を指示した。牛を生かしておくことによるリスクが高すぎると判断したのだった。雌の1頭も、出産後に分析対象となる乳を出すようになったらすぐに安楽死と焼却処分の措置が取られる予定だという。
 それでもバン・エネナーム氏によると、遺伝子編集には多くの有望な応用分野があるという。例えば、温暖化が進む世界で重宝されるであろう暑さに強い家畜や、中国の畜産業に壊滅的な打撃を与えているアフリカ豚コレラに耐性を示す豚などの開発だ。
 同氏は現在、雌形質の発現を阻害するSRY遺伝子の利用に関する実験を進めている。完全に雄だけの群れを作り出すことを目指しているのだ。
 何度か失敗したが、今年6月には「キャリア(保因)」牛の受精に成功した。2020年3月に特定の遺伝子を持った個体が誕生する予定だという。
 この研究における目標は、より多くの肉が期待できる雄のみの肉牛群や雌だけの乳牛群、さらには雌だけの鶏群などを育成できるようにすることにある。【翻訳編集AFPBBNews】
〔AFP=時事〕

牛はどこに向かうのか

牛の面白さは「わからないところ」だと僕は思っている。

牛という動物は同じ家畜である豚や鶏に比べ
①飼育期間が圧倒的に長く環境要因を受けやすい
②発酵タンクである第1胃というブラックボックスを通すために消化システムが複雑
③改良スピードが遅く、遺伝能力が固定されていない。
という特徴がある。

つまりはよくわかっていない動物だってことだ。

牛の改良は目利きと血筋。それこそが世界が真似のできない日本の和牛。いくら海外に和牛の遺伝子が流出しても、日本人のきめ細やかな管理までは絶対に真似できない。

それが今の畜産農家の主流意見だと思う。
僕も同じ思いだ。

でもこれから先の時代は誰でも同じように牛が飼える。
名人芸より資本力。そんな時代になってくると思っている。

僕が牛飼いを始めた17年前は但馬牛という血統、その中でも「おおみぞ」「みつふく」「きくつる」「ごいちよ」などなど、【母方の系統】が改良の視点でした。
いい母系を持つことがいい牛を作る絶対条件だった。

しかし、約12年前から枝肉データーを基にした【育種価】が改良が主流となり和牛の改良は著しく進みます。牛は1.2倍ほど大きくなり、筋肉内の霜降りの割合も2倍近くに増えた。改良スピードの加速によって全国的に牛の能力が固定され、種雄牛の掛け合わせで肉質が予想できるようになってきた。

さらに近年は【ゲノム育種価】といって特定の遺伝子を評価することで牛の能力を把握する方向へとシフトしてきています。これによって現在の2倍以上のスピードで牛の改良は進むとも言われている。

そしてさらに今回のニュースにあった【遺伝子改変技術】。

この流れはおそらく止められない。出来ることがあるとするならば和牛の遺伝子を知的財産として国外に流出しないようにしていくくらいだ。間違いなく今後牛の改良スピードは進み、誰が飼っても同じような家畜になっていくと僕は思っている。そうなればますます大手企業の和牛参入は進み、家族経営の和牛農家は企業の作る相場に左右される存在になっていくだろう。

零細農家は負債を抱えメガファームへの道を進むか、自分で肉を販売する力をつけるか。何年後か何十年後かはわからないけど、そういう時代に入っているってことだ。

話が飛躍しすぎって思う人もいるだろう。でも僕が畜産を始めた時は繁殖和牛50頭いたら凄いって言われていたんだよ。でも今や50頭なんて標準的な規模。50年前なんて20頭も牛を飼うなんて出来るわけがないと鼻で笑われた時代だったんだよ。

今のスピードはこの時代感以上に早い。

正直な話、そうなったら牛飼いってつまんない。
少なくとも僕はそう思ってる。

まあ、未来はわかんないんだけどね。
あれだけ注目された体細胞クローンだって実用化されずに終わった。
そんなこともある。

ただ、分からないからこそ大切なことがある。それがそれぞれ牛を飼う農家の意思だと思うのだ。

改良スピードが上がれば上がるほど求めた形質は向上するが、一方で失う形質も多い。霜降りと増体を追った結果、繁殖性は低下した。強健性も薄れてきている。

「そんなのはクリスパー・キャスナインで海外から強い遺伝子を挟めばいい。」
それも一つの意見だ。

たださ、そんな牛飼いでいいのか?
今からやることあるんじゃないのか?
改良ってなんなのか。
今一度考える時期に和牛は来ていると僕は思ってる。

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書いている人

しゃべらないけど発信はマメ 田中一馬

1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。
小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。
2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として様々な農家の蹄をサポートをしている。
2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛を中心に長期肥育や経産肥育、放牧牛肉の生産などをスタート。
好きなものは牛肉、漫画、純米酒、ウイスキー。ここ1年はサウナにドハマり中。

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