最終更新日2019.1.8 16:19
先天的な疾患による死亡事故は繁殖農家の課題でしかない
朝削蹄に行く前に牛舎に行って餌をやる。
「べえええええええええーーーーーーーー。」と鳴く声がする。
明らかにおかしな声。
「子牛が親に踏まれたか!?」
そう思って産室に走るといつも通りの風景。
ふと後ろを振り向くと通路に糞にまみれた子牛が生まれていた。
最も近いお産で1ヶ月後。
「しまった!!1ヶ月の早産はヤバイ!!」
駆け寄って僕は唖然とした。
産んだのは2ヶ月後に産む予定だった牛。
子牛には毛はおろか歯も生えていない。。。
薄い皮1枚で皮下脂肪もなく、内臓の動きがリアルに見える。
動向も半分開き、まさに死の直前だった。
糞まみれの子牛を抱きかかえ、そのまま家の風呂に直行。
低体温症の子にはお風呂が最も効果的だからだ。
ただ、こんな早産の子は今まで育てたことがない。
正直自信が無かった。
https://twitter.com/tanakakazuma/status/1060318479625027584
でもこの子は僕の想像以上に生きる意志の強い子牛だった。
意識朦朧としながらも指をしっかりと吸う。
そして自力で初乳を飲んだ。
https://twitter.com/tanakakazuma/status/1060337156948811776
「行けるかもしれない。。。」
https://twitter.com/tanakakazuma/status/1060341342876758017
お風呂から上がって乾かされた赤ちゃん牛。協議の結果「茶の間で飼おうか(たたみ部屋なので立ち上がれた時も足に優しい)」になりました。温度調節もしやすいし。しばらくはお家に牛のいる生活になります。おねしょシーツとか西松屋に買いに行かなきゃ!子供達はどんな反応するかな。生きて欲しい。 pic.twitter.com/2SiWvhEe4m
— 田中あつみ 但馬牛飼い精肉店【田中畜産】 (@tanatiku) November 8, 2018
少しお風呂でのぼせたので、ちょっと板間で休憩なう。 #牛ネタ pic.twitter.com/7uh7oDarQr
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) November 8, 2018
目の前の低体温症の壁は3時間の入浴で回復、自力で哺乳もできたことで体温も維持できる状況はできた。
少量ではあるが自力で哺乳瓶から初乳を飲み、胎便も出した。体温も安定。まずは一安心。今晩持つかどうかはまだ分からない。そんなレベル。当分は家の中で飼うことにした。全部が手探りだけど、生きてるからね。この顔が見れただけでも満たされる。頑張ります。頑張ろうね!! #牛ネタ pic.twitter.com/8awHu99PWS
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) November 8, 2018
でも、
ダメだった。
死因は窒息死。
早すぎて肺が未発達であったことが原因。
脇の下にある心臓の鼓動が止まるまで、僕はずっと手を当てることしかできなかった。
牛を飼っているとこういうことはある。
早産の子は持ちませんでした。まだ肺が未発達だった為上手にガス交換が出来ませんでした。NICUのような人工呼吸器があればまた結果が違うのかもしれない。でもここは牛の現場。ここで出来る事を精一杯やるだけなんだよね。生きてて欲しかった。
— 田中あつみ 但馬牛飼い精肉店【田中畜産】 (@tanatiku) November 8, 2018
牛の死に慣れることはない。
割り切ってもないし、心折れることもない。
ただふとした瞬間に「チクショウッ!!」って叫びたくなる。時々ね。
色々と思うことはあるけど、間違いないのは僕が元気でいることの大切さ。
だから飯も食う。笑うし酒も飲む。
向き合うことの繰り返しがこの仕事だと思っている。
昨年は1年半子牛の死亡事故がゼロ。
そんな僕に「勘違いしてんじゃねえ!!」と、今年は5頭の子牛が立て続けにダメになった。
先天的な腎疾患が3頭(2頭はまだ生きてる)、
https://twitter.com/tanakakazuma/status/1057555767404838912
不受胎流産死産など子牛が生まれるのは当たり前だけど当たり前ではない。1年かけてようやく生まれ、病気にならないように守りながら飼育をする。もう大丈夫と思う生後3ヶ月頃。脈略なく突然ダメになる子牛。「先天的だから仕方ない」そんなこと思えるか。そんな事例が但馬牛は増えてきている。 #牛ネタ pic.twitter.com/Rb2WC25yeT
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) October 31, 2018
https://twitter.com/tanakakazuma/status/1057945192240603136
予定日を過ぎたのに8キロしかなかった子牛、、、
朝牛舎に行くと予定通り大きな雌子牛が生まれていた。でももう一頭は死産。一目でダメだと分かった。小さな小さな雌子牛。予定日は一昨日。体重は8kg。普通の1/3以下の体重は人で言えば1000g以下の超低出生体重児。毎日牛を見てても初めてのことばかりだ。子を舐めて鳴く親の姿に胸が痛む。 #牛ネタ pic.twitter.com/iQmfGTvla8
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) October 26, 2018
そして今回の早産。
悔しさしかない。
「今年は事故が続くわ。。」と少し漏らした僕に、獣医師は「全部不可抗力じゃないですか。」と返してくれた。
昔は遺伝による事故は仕方ないと思ってた。
自分に過失がないと知ってホッとしたことも正直な話ある。
でも今はやっぱ全部悔しい。
先天的なものも含めて全部自分の課題だと思う。
繁殖農家は肥育素牛を生産するだけの農家じゃない。
改良の方向を決めて礎を作るのが繁殖農家だろって思う。
だから先天的な死亡例も全部人為的な事故。
自分の力でもなんでもない単なる和牛子牛バブルを我が力だと過信し、この事故は仕方ないなんてズレた牛飼いは絶対嫌だ。
死んだ子牛たちにはただただ申し訳ない。
それでも僕は傲慢だから、何度でもやり直す。
年老いて牛についていけなくなっても最後までしぶとく、僕の思う牛飼いを全うしたい。