最終更新日2019.1.8 18:18
25ヶ月齢の廃用牛なんて絶対に美味しくないと思っていた。
こんにちは。
但馬牛繁殖農家の肉屋さん、田中畜産の田中一馬です。
久しぶりにお肉のカットをしました。
25ヶ月齢の但馬牛の去勢牛。
「ん?」と思った方はさすがです。
黒毛和種の中でも晩熟な但馬牛は、通常30~32ヶ月齢で屠畜を行います。
長いものでは36~40ヶ月齢なんて牛もいる。
25ヶ月齢は早すぎる。
この牛は病畜として出荷した牛だった。
廃用という名の屠畜
お肉になるために生まれ、人の思いで屠畜の時期を決められる牛。
何を持って天寿を全うと呼ぶのかはわからないが、少なくともすべての牛が人の思う時期まで全うできるわけではない。
明日屠場に行く妻名義の肥育牛。ずいぶん迷ったけど屠畜を決めた。実質は屠畜と言う名の廃用だ。分かる人は分かるけど25ヶ月齢。早い。但馬牛は通常32ヶ月で割る。どれだけ早くても28。起立不能など緊急性があったわけじゃない。あと半年は飼えたけど肉牛として見切りをつけた。よく頑張った。 pic.twitter.com/Hz9op9iohW
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) September 27, 2017
土砂降りの中「芳福悠」を出荷。肉牛ではなくて繁殖牛みたいな体型だな。。。飼う人が飼えば今からでも肥えるのかもしれないが25ヶ月毎日見てきた僕の判断。廃用と言っても肉を廃棄するわけではない。肉牛として途中下車させるということ。肉は同じように検査を受けて食用に回る。 #牛ネタ pic.twitter.com/Vm529i7hC0
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) September 28, 2017
牛の調子が悪いときは途中下車して食肉になるケースも多い。
廃用とは食肉として使えるよう、早期に出荷するということだ。
32ヶ月齢まで飼いきったら格付けはどうあれ僕はモヤモヤしてなかっただろう。元々子牛市場に出せなかった牛を自家肥育したのだから。ただ、25ヶ月まで飼って廃用と言う選択肢は残念という気持ちが強い。牛にとってどちらがいいとかじゃない。たどの僕の捉え方。病畜で出荷という敗北感。 #牛ネタ
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) September 28, 2017
それでも残念という気持ちが大きい。
ただこれは僕の捉え方。
牛にとっては廃用も屠畜も同じことです。
本当はもう少し早い決断も出来た。
でも迷っちゃったんだよね。
もったいないなって。
調子を崩した牛は落ちていくのが早く、もたもたしている間にどんどん痩せてしまう。
場合によっては死んでしまうケースだってある。
屠畜後に内臓を見てみると腎不全でした。
尿石もなかったため、先天的な腎臓の欠陥ではないかとのこと。
ぎりぎりのタイミングだったのかもしれない。
そんな屠畜を迷っていた時に背中を押してくれたのは「今はミンチだって需要があるんだから。」という兄弟子の言葉だった。
もちろんミンチの単価で出荷すれば赤字だし、おいしく食べてもらうことが牛のためとも思わない。
ただ、そのとき「出荷も廃用も同じだよな。」って思った。
健康に飼う事が大切。
利益を出すことも大切。
でもそれらの大前提として、牛を食卓に届けることが僕らの仕事。
牧場で死んだ牛は食肉にはなれません。
産業廃棄物として決められた施設で処理される。
食べてもらってこそ。
ステーキであろうがミンチであろうがそれは肉になって先の話。
大切なのは牛飼いとしての在り方を忘れないことだなって思った。
廃用牛の出荷の時は屠畜前に獣医師による検診があります。もちろん屠畜後は内臓や肉の検査があり、同時に別室でBSEの検査も行われる。これは健康畜でも同じです。芳福悠のお肉も問題なく合格。少し買い戻して食べたいなって気持ちもある。明日にでも肉屋さんに電話してみようかな。 #牛ネタ pic.twitter.com/EERWcWKgBA
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) September 28, 2017
廃用も通常出荷も肉になれば食肉として同じ検査を受け、合格したものだけが市場に流通する。
僕の牛飼いとしての仕事はここまで。
ほんの15分ほどで牛は枝肉へとなっていく。何度見ても凄いな。久しぶりに来た屠場には新しい屠夫さんが入っていた。食肉の技術も牛飼いも、何千年も前から受け継がれてきたもの。途切れることなく繋がってきたものなんだよね。この流れの中で僕にしかできないものを乗せていけたらいいな。 #牛ネタ pic.twitter.com/tH9u8SuGnT
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) September 28, 2017
あとは食肉センターの職員、受け入れ先の肉屋さん、食肉衛生検査所の先生方。。。
牛を肉にするプロの現場に切り替わる。
食肉の技術も牛飼いも、何千年も前から受け継がれてきたもの。
途切れることなく繋がってきたものなんだよね。
この流れをちゃんと受け継いで、僕にしか出来ないものを少しでも乗せれたらいいなって思う。
どうしてもこの牛の肉を食べてみたかった僕は、自宅用に少しだけお肉を買い戻すことにした。
25ヶ月齢で肥えてない去勢牛なんて、絶対に美味しくないって思っていた。
廃用という形で出荷した24ヶ月齢の去勢牛。自宅用に左右のラムを買い戻して持ち帰ってきました。いつもは妻が筋引きやトリミングをして商品にしていくけど、今回は僕もやってみようかな。ラムはサーロインから続くお尻の部分「ランプ」と、外腿に繋がる「イチボ」からなる部位。僕の大好きな場所。 pic.twitter.com/pl96eVGVJX
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) October 7, 2017
早速持ち帰ったラムをカット。
ラムはサーロインから続くお尻の部分「ランプ」と外モモに繋がる「イチボ」からなる部位です。
僕の大好きな場所。
早ーーーーー!!あっという間にバラバラ。筋肉って面白い。イチボはステーキ。ランプは焼肉とローストビーフ用に。24ヶ月齢だからあっさりかと思ったら予想外にしっかりした旨さ。雑肉は筋ごとミンチにしてハンバーグにしようかな。ちなみに僕はカメラマンと味見係。蹄は切るけど肉は切れません!! pic.twitter.com/5qsxIJb2Iq
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) October 13, 2017
イチボはステーキに、ランプは焼肉とロースとビーフにして、切ったその晩に食べてみました。
嘘だろっていうくらい美味い。。。
全部位買い戻せばよかったと後悔するレベルだ。
イチボという部位もあるんだろけどね。
但馬牛っていう遺伝子は凄いと本気で思った。
嘘だろっていうくらい美味い。。。全部位買い戻せばよかったと後悔するレベルだ。部位もあるんだろけどね。但馬牛っていう遺伝子は凄いと本気で思った。あと半身のラムしかないけど、販売しようかな。。。でも全部食べたいな。。。 pic.twitter.com/Qs6GXugKOh
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) October 13, 2017
一方で但馬牛(神戸ビーフ)であっても「これ、僕の口には合わないな。。。」って言う肉もある。
40ヶ月齢を超えた長期肥育の雌の小豆色をした肉の美味しさも知っている。
農家によっての肉の味の違いも、個体による肉の味の違いも分かる。
それらを知った上でもこの肉は美味しかった。
・24ヶ月齢という浅い月齢での屠畜。
・枝肉重量が200kg弱と痩せすぎな体型。
牛飼いの常識で考えれば、この子は美味しいはずがない。
僕もそう思っていた。
そういえば10年前、僕が放牧で牛肉を生産したときもそうだった。
「青草を食べさせて仕上げるなんて肉が獣くさくなる。」
「放牧して肉が美味しくなるはずがない。」とみんなに言われた。
でもやってみたら美味しかった。
お肉というのは本当に不思議だ。
自分の持っている常識は常識なんかじゃないんだよな。
そんなことを1頭1頭の牛肉から教えてもらう。
枝肉から骨を外した状態では、まだお肉はあちこちに筋が入った丸い塊。
それを再度人の手で切り分けていく事で、どんどん美味しさを発揮する。
ランプ&ラムシン&ネクタイ&イチボ。
ね、肉ってこんなにも美しい。
放牧だとか長期肥育だとか廃用だとか但馬牛だとかお肉にはいろいろな肩書きがつく。
そんな先入観や常識に縛られず、目の間の肉に向き合って自分の基準をつくって行きたいな。
もちろん牛を見られてこそで。