最終更新日2019.1.8 16:21
先天的な欠陥は仕方ないと思っていないか?
こんにちは。
田中畜産の田中一馬です。
今朝牛舎に行くと2ヶ月齢の子牛が死んでいました。
腎臓の数値だけがずっと高く、点滴等で毎日治療していただきましたが駄目でした。
ここ1〜2年、生後1ヶ月齢くらいから腎臓に障害が出るケースを但馬管内でよく聞きます。
元々腎臓が弱い個体が、餌を食べだす1~2ヶ月齡になったときに、腎臓の解毒・ろ過機能が追いつかなくなり、ダメージとなって一気に出る。
こうなるとなかなか回復は難しく、廃用となるケースが多いのが実情です。
バンド3やクローディン16欠損症などの遺伝病は有名ですが、未だ病名として確定していない遺伝病が出てきているんじゃないかと僕は考えています。
但馬牛はもとより、全国的に血統の偏りが大きくなる中で、いくら現在確認されている遺伝病を避けて交配をしたところで安心とは言えなくなっていると思います。
今回家畜保健所での解剖をお願いしましたが、明らかな死因は特定できませんでした。
明らかに肺炎や下痢、低体温、外傷など、原因が分かる事故もありますが、解剖してもよくわからないといったことも実は珍しいことではありません。
こういった事例は「残念だったね」と個々の農家の事例として終わらせがちです。
僕はこういった事例にこそ家畜保健所、共済、獣医師、農家、試験場などが協力して原因究明に向かうべきだと思います。
遺伝病一つにしても、家畜保健所や共済の持っている事例を畜産試験場が取りまとめ、仮説を立てて調査をするといったことも可能なはずです。
個々の事故の事例は個人情報ですし、非常にデリケートな問題を含んでいます。
例えばブログで「牛が死にました」なんて書くと、狭い業界なので風評被害も出ます。
だからこそ公の研究機関がこのテーマに取り組む必要性を強く感じています。
遺伝のことに詳しい僕の友人に相談したところ『美方地域で1番早くできることは、種牛ごとでの死亡例の割合を数値化して外していく作業ではないでしょうか?』というコメントをいただきました。
(ほんとはすごい長文だったけど抜粋しました。ありがとう。)
確かに、但馬牛でそれをするとただでさえ付けられる種が限られているのに・・という思いもあります。
しかし感染性の病気であれば治すことも抑えることもできますが、生まれ持った弱い因子は次につながる可能性があります。
但馬牛は兵庫県閉鎖育種であるからこそ、限られた血統構成の中で不良因子を残すことを避けていかなくてはいけません。
特に美方郡で言えば使う種は芳悠土井、芳山土井、照忠土井の3種類で90%を占めているのが現状。
誰もがはっきりと目に見える弊害となる前に、できることを勧めていかなくてはいけません。
病気で牛を死なせてしまっても、先天的な心疾患であっても、全ては自分の責任です。
目の前の牛を見て出来ることを模索するしかないのです。
先日のブログで『向き合うとは理解しようとする事。』と書きました。
牛というわからない動物に対して理解しようとするのが牛飼いであり、その過程の中で牛の健康や美味しさがあります。
放牧したら健康だとかそんな簡単なもんじゃないんです。
牛を見て理解するのが牛飼いの技術であり、そこに終わりはありません。
どんな場合であっても牛が死ぬというのは異常なことです。
先天的だから仕方ないではなく、目の前の牛に向き合うことでしか僕らは牛を飼えません。
今まで事故があるたびに僕は『教訓にしよう』と心に決めてきました。
だけどそれは少し違うんじゃないかとふっと思ったんです。
牛を理解しようと、生きている間にしっかりと目の前の牛に向き合っていれば、『教訓にしよう』といちいち決意する必要もなく、当たり前に教訓になっているはずです。
逆に向き合えていない時にこそ、自分が見れていなかったことに後悔して、死んだ時に「教訓にしよう!」と決意するんですね、僕の場合。
死んでしまった後に考える事はありますが、その分をその牛が生きている時に注ぎたいと思います。
目の前の牛を見て、何ができるのか。
先天的な欠陥は仕方ないと思っていないか?
今いる牛たちに、これから生まれてくる牛たちに、自分が出来ることはまだまだあります。