田中一馬ブログ

神戸牛は但馬牛?JA牛肉偽装問題からブランドについて考えてみた。

こんにちは。

但馬牛繁殖農家のお肉屋さん、田中畜産の田中一馬です。

さっきツイッターを見ていたらこんなニュースが流れてきました。

https://twitter.com/vets_hiro/status/922581579435671553

ん?何だこれ??

但馬牛:神戸牛と偽る

早速クリックして記事を読むとこう書いてあった。

全国農業協同組合連合会兵庫県本部(JA全農兵庫)は23日、神戸市中央区の直営レストラン「神戸プレジール」本店で昨年4月以降、「但馬牛フィレ肉」を「神戸牛フィレ肉」と偽って提供していたと明らかにした。JA全農兵庫によると、人気が高い神戸牛のフィレ肉が品切れになることが多く、客の要望に応えようと独断で決めていた。但馬牛も高級な牛肉のブランドだが、神戸牛より格付けが低い。今月、内部通報で発覚。神戸牛の発注数と店舗での販売数を調べた結果、偽って提供されたのは約3200食に上ると判明した。食事をした客に代金全額を返金し、同店は当面休業する。JA全農兵庫の曽輪佳彦本部長は記者会見し「神戸牛のブランドを傷つけ、ご迷惑を掛けた」と謝罪した。(共同)

全農兵庫が神戸ビーフのプロモーションのために作ったレストラン「神戸プレジール」。

そこで但馬牛を偽って神戸牛として提供していたというニュースだ。

僕のツイッターにも数件のリプライがあった。

よりにもよって全農が何やってんだって思う。

ただ、ここで全農を批判するのが僕の仕事じゃない。

但馬牛の繁殖農家で神戸牛の素牛を生産する僕だからこそ、但馬牛と神戸牛について書ける事もあると思う。

神戸牛は全て但馬牛(タジマウシ)です。

兵庫県には1200年以上前から改良されてきた但馬牛(たじまうし)という品種の牛がいます。

黒毛和種の一種ですが、兵庫県内だけで改良されてきた全国的にも稀有な血統。

和牛のルーツともいえる牛が但馬牛です。

名牛、田尻号

現在国内では300を超える銘柄牛が生産されています。

松阪牛、米沢牛、近江牛、前沢牛、飛騨牛。。。。

これらは全て「牛肉」のブランド名。

各銘柄に地名がつく場合、そのほとんどが肥育される最終飼育地の地域名が使われます。

北海道や沖縄で生まれた子牛でも、山形の農家さんが肥育すれば米沢牛にもなるし、三重県の農家さんが肥育すれば松阪牛にもなる。

ただ、神戸ビーフは違う。

兵庫県の北部、但馬地域で飼われていた但馬牛。

国際港として開港していた神戸港で、一人のイギリス人が農耕用に飼われていた但馬牛を食べたことが神戸ビーフの発端といわれています。

神戸で飼われているから神戸ビーフなのではなく、但馬牛を神戸で食べたから神戸ビーフ(神戸牛)となったんです。

つまり神戸牛は但馬牛という品種が持っている、イチ商品名ということです。

但馬牛を神戸牛と呼ぶとなぜ偽装になるのか

神戸牛=但馬牛(たじまうし)

それならば何故このような偽装問題になったのでしょうか?

実は但馬牛には2つの呼び名があります。

  • たじまうし(牛の品種)
  • たじまぎゅう(牛肉のブランド名)

それぞれが商標登録されていますが、ややこしいですよね。。。

兵庫県で生まれた但馬牛(たじまうし・牛の品種)を、兵庫県内の指定農家が肥育して、兵庫県内の屠場でお肉にすると但馬牛(タジマギュウ・商品名)となります。

そして、その但馬牛(タジマギュウ)の中でも基準を満たす物を神戸ビーフと呼ぶことができるんです。

神戸肉流通推進協議会のHPより

上記写真をよく読んでいくと分かりますが、基本的に但馬牛(たじまぎゅう)は神戸牛と同じ基準です。

しかし、「たじまぎゅう」の中でも霜降りが少なかったり(BMSが5以下)、枝肉重量が470キロを超えたりすると神戸ビーフとは名乗れない。

※たとえ霜降りが最高ランクのBMS12であっても、枝肉重量が大きすぎると神戸牛のハンコはもらえません。

神戸牛も但馬牛(たじまぎゅう)も、どちらも同じ但馬牛(たじまうし)。

BMSや牛の大きさの違いはあるものの、味や品質に差があるものではありません。

それ以上に各農家の飼い方の方が味には差が出てくる。

ただ、定義をつくりブランド化している以上、但馬牛(たじまぎゅう)と神戸牛には当然価格差があります。

神戸牛以下の単価で仕入れた但馬牛を神戸牛として販売することは詐欺と言われても仕方がない。

元農水省の原田さんのツイート。その通りだと思った。

GI(地理的表示保護制度)から見る但馬牛と神戸牛

少し話は逸れますが、農林水産省がブランドを国際的に保障するGI制度というものがあります。

神戸ビーフと但馬牛は日本が初めて認定をした牛肉ブランドです。

ハイグレードの神戸ビーフだけではなく但馬牛(タジマギュウ)も含めて認定されたという事は、単なる格付けを超えた但馬牛(たじまうし)そのものが評価されたということだと思っています。

但馬牛と神戸ビーフの公示されたページを一部抜粋しましたので、ご興味のある方は読んでみてくださいね。(以下農林水産省のページより抜粋)

神戸ビーフ・但馬牛

「神戸ビーフ」「神戸肉」「神戸牛」「KOBE BEEF」「但馬牛」「但馬ビーフ」の素牛である但馬牛(たじまうし)は、兵庫県の県有種雄牛のみを歴代に亘り交配した牛である。

「神戸ビーフ」「神戸肉」「神戸牛」「KOBE BEEF」「但馬牛」「但馬ビーフ」の脂質の良さを決定する成分であるモノ不飽和脂肪酸割合が高いといった特性は、素牛である但馬牛(たじまうし)によるところが大きい。

牛肉の良し悪しはその素牛できまると言われているが、「但馬牛」「但馬ビーフ」の素牛である但馬牛(たじまうし)は、約1,200年も昔から兵庫県北部の但馬地方の山あいで、農耕用の役牛として、澄みきった空気、清らかな渓流、豊富な山野草など恵まれた自然環境にはぐくまれてきたが、明治期においてその遺伝子が肉牛としての良質な血統であることが認識されるようになり、それ以降長い歳月をかけ、多くの人々の努力により、改良に改良を重ねた結果、良質な肉質を有する肉用牛としてつくり出されたものである。

その血統からは、性質温順で、身体つきも気立てもよい牛が代々生まれ、しだいに但馬地方のみならず兵庫県内各地で飼育されるようになった。

但馬牛には強い遺伝力があり、全国の和牛品種改良の「もと牛」として使われている。なかでもとくにすぐれた資質が固定している系統を「つる」と呼び、その系統から生まれた牛を「つる牛」と呼んでいる。

但馬牛には「あつたづる」「ふきづる」「よしづる」の三大つる牛が現存しており、優れた特長を代々受け継ぐ牛として君臨している。

「もと牛」として重宝され、現在国内各地の銘柄牛に受け継がれるようになった但馬牛の遺伝子。そんな中、兵庫県産但馬牛は今もなお他府県産の和牛との交配を避け、完全な純血を守り続けている。

このような但馬牛(たじまうし)の肉質を有する牛肉の中で、公益財団法人日本食肉格付協会が実施する枝肉格付において、A・B2等級以上に格付された枝肉にのみ「但馬牛」「但馬ビーフ」の称号が与えられる。

GIについてはこちらのブログをご参照ください

【GI(地理的表示保護制度)から見る、牛肉と但馬牛の歴史。】

ブランドを作るのも傷つけるのも人

牛肉の偽装問題は今までも何度もニュースになりました。

まだ牛トレーサビリティーが整備される数十年前、F1(交雑種)が黒毛和種になるなど偽装が当たり前にあった時代もあったと聞いています。

ただ、今はそんな時代じゃない。

日本で飼われている牛は、生まれてから肉になるまでの全ての過程を追跡できるようになっている。

でもね、結局はどんな世界にも抜け道ってあるわけです。

今回のケースは内部告発での発覚でした。

調べれば分かるシステムはあるけれど、調べなきゃ分からないという面もある。

そんなことは牛だけじゃないと思う。

牛肉偽装は最終的にはモラルでしかない。

だからこそブランドの信頼度ってこれからどんどん薄れてくるんだろうなって思うんです。

だってそのブランドにモラルがあるかなんて、だれも見ることが出来ないから。

今まではブランド自体が信頼でした。

しかし情報が多様化し様々なものが可視化される中で、ブランド以上に信頼できるものが増えてきた。

それは定義や品種や格付けではなく人。

これからは個人の信頼こそが大きなブランドになっていくんじゃないのかって思う。

個人ブランドが神戸牛を凌ぐという話ではない。

「神戸ビーフを生産している田中一馬」ではなく「田中一馬の生産する神戸ビーフ」といった風に、個々人の信頼性が積み重なってブランドが作られていくって話。

そうやって身近に見えるものからしか信頼性って生まれないんじゃないのかな。

ブランドを作るのも傷つけるのも全て人。

今回の全農の件をうけてそんなことを考えていました。

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書いている人

しゃべらないけど発信はマメ 田中一馬

1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。
小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。
2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として様々な農家の蹄をサポートをしている。
2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛を中心に長期肥育や経産肥育、放牧牛肉の生産などをスタート。
好きなものは牛肉、漫画、純米酒、ウイスキー。ここ1年はサウナにドハマり中。

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