田中一馬ブログ

動物感覚は視座を変えること

動物感覚って聞いたことありますか?

自閉症の動物学者テンプル・グランディンの名著。

自閉症だからこそ見える世界がある。

5分の遅延が1000ドルの損失を生む屠場で、次々と問題点を見つける著者。

動物が動かないのは見ている世界が違うから。

アメリカの食肉処理場の設計にも関わる著者が「翻訳する」動物達の見ている世界。

僕の中でナンバーワンの本なんです。
ぜひ読んでもらいたいな。

視座を変える

動物感覚とは視座を変えるということなんだと思っている。

手塚治虫の「ブッダ」という本がある。
この話に中にチッタという少年が出てくるんだけど、その子は自分の精神をあらゆる動物に同調(憑依)させることができるんだよね。

例えばおなかがすいた時には虎に憑依し、虎として獲物を狩り、空っぽになった自分の肉体まで持って帰ってくる。
そして再び人間に戻り、自分の食べる分だけ肉をとり、残りは虎に与える。
しかし、チッタが大人になった時、再び動物に憑依しようとしたが出来なくなっていた。。。
以前のチッタは動物たちを仲間だと(生命に人間と動物と言う境界線を敷いていない)思っていた。しかし、大人になって目の前に現れた象を単なる「敵」として認識してしまったため、憑依(同調)出来なかった。と、いうエピソード。

まあ、漫画だからね笑。

でも僕はこのエピソード好きなんです。

ただただ虎の精神に同調(憑依)し、虎として動く。
これって究極の「視座を変える」だと思っている。
視座を変えるのスタートは想像。

「僕は絶対こう思う!」から
「でも、あの人だったら何考えているのかな?」
「あの人はどう見てているのかな」
っていう想像から始まる。
その究極が僕はチッタだと思っている。

そして、テンプル・グランディンの動物感覚も同じなんじゃないのかなって。

牛は話さない。
何を考えているのかなんてわからない。
想像するしかない。

僕がまだ牛飼いをする前、2年間牧場に住み込みで研修をさせていただいた。
そこで見続けた奥さんの牛に対する対応は僕の牛飼いの理想になってる。

「なぜ、この時期にこの種類の餌をやっているのですか?」
そう聞いても、いつも「良くわからない」と笑って答える。

でも、親子合わせて160頭近い牛の状態を(当時は個体識別番号の耳標のない時期)些細なことまで全て把握していた。
だから牛のちょっとした変化にもすぐに気がつく。
そこで働く誰よりも毎日毎日それぞれ1頭1頭の牛に近かった。

テンプル・グランディンは「人は目に映っていても何も見えていない。」と言う。

言葉を話さない牛が相手だからこそ、いかに牛の視座に変えれるかだと僕は思う。

僕もまだ何も見えてない。
色んな技術はそれを見るための布石だ。

どんな時でも「視座を変える」ということが必要になってくるのだと思う。
商売でも、牛飼いでも、夫婦でも、親子でも。すれ違う人でさえ。

例えば子牛の哺乳でもそういったことは何度も体験してきた。

追加哺乳や人工哺乳で一番大変なのが「最初にミルクを飲ます時」だ。

子牛からしてみれば、親と離され不安な上、よくわかんない人が、よくわからないもの(哺乳瓶の乳首)を口に入れてくる。
出てくるミルクはお母さんのとは違う味。。。

「怖い。嫌だ。」
と、思って当然。

最初のミルクを与える時、僕は乳首の種類を変えたり、入れる角度、深さ、顎の固定角度などなど色々その牛にあった方法を探る。
飲む牛は簡単に「スッ」と飲むが、飲まない牛はとことん嫌がる。

僕の視点が自分にある時、それは「ミルクをしっかり飲まして発育の良い子牛を育てたい!そして高く売りたい!」という思いがある。
飲んでくれないと「このままじゃダメだ、何で飲んでくれないんだ!」
という焦りも生まれる。

でも、焦れば焦るほど子牛は絶対にミルクを飲まない。
不思議なもんで急いでいる時に限って、いつも飲む牛であっても飲まないもんなんだ。

何百頭の子牛に哺乳してきて僕が分かったこと。

それは、子牛がミルクを飲む瞬間、僕はなにも考えていないっていうことなんだ。

「どうやったら飲んでくれるだろうか?」この問いを毎回毎回牛に問い、哺乳瓶の乳首を嫌がる牛に「どうしたら、どうしたら、どうしたら、どうしたら・・・」と問い続け、自分の体を動かし続けているうちに、「フッ」と急に子牛が猛烈にミルクを飲みだす瞬間が来る。

その時に「フッ」と我にかえる。
その瞬間は「子牛を高く売りたいなんて思考は一切ない」
ただただ純粋に子牛が何を求めているのかを感覚で探り、無意識のうちに子牛と同化している。チッタみたいにね。

だから僕はこの最初のミルクを飲ます瞬間が、とても負担だし、一番充実感を感じる。

視座を変えることは、想像することから始まり、どこまで寄り添えるか。

だからね、

動物感覚がわかってくれば、

 

 

牛が逃げたってなんのそのなんです。

いや、

 

 

 

逃がすなよ。。。

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書いている人

しゃべらないけど発信はマメ 田中一馬(カズマ)

1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。
小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。
2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。
2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。
好きなものはカメラ、カレー、コーヒー、純米酒。

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