最終更新日2019.1.8 16:20
畜産の新規就農の相談を受けてきて、今僕が伝えたいと思ったこと(前編)
こんにちは。
但馬牛繁殖農家のお肉屋さん、田中畜産の田中一馬です。
24歳の時に5頭の妊娠牛を導入し、研修先の牛舎を間借りしてスタートさせた畜産経営。
非農家出身の僕が牛飼いを始めて14年が経ちました。
畜産の新規就農は資金面や土地の確保など様々なハードルがあります。
畜産業界でゼロから起業するケースは未だ珍しく、今でも僕の所に相談に来られる方が多いのが現状。
昨日も少しだけですが就農の相談をいただきました。
でもね、結論から言いますね。
どうすれば畜産の新規参入が可能かなんて、全くわかりません!!!!(ごめんなさい!!)
ただ、10年近く色々な方から相談を受ける中で、僕が共通して感じたことがありました。
今後牛飼いをしたいと思っている方のお役に立てれば幸いです。
(今回は主に学校を卒業して畜産経営を目指したいという若い方に向けて書いています。)
新規自営就農者と新規参入者
新規就農者って言葉があります。
その名の通り【新たに農業に就く人】のことです。
最近、農業に就く方が増加しているというニュースを耳にするようになりました。
そういうニュースを見ると、
「農業って楽しそう!!動物が大好きだし、いつか牧場を運営してみたいなー。」
って思っちゃう方も多いのではないでしょうか。
はい、僕自身もそうでした。
でもね、増加していると言っても、実は新規就農者にも色々あるんです。
ここではまず畜産をゼロから始めるというケースを、数字で見てみたいと思います。
農林水産省が定義する新規就農者は3種類に分けられています。
①新規自営就農者
②新規雇用就農者
③新規参入者
①新規自営就農者
農家世帯員で、調査期日前1年間の生活の主な状態が、「学生」から「自営農業への従事が主」になった者及び「他に雇われて勤務が主」から「自営農業への従事が主」になった者。
いわゆる農家の跡取りがこれにあたります。
②新規雇用就農者
調査期日前1年間に新たに法人等に常雇い(年間7か月以上)として雇用されることにより、農業に従事することとなった者(外国人研修生及び外国人技能実習生並びに雇用される直前の就業状態が農業従事者であった場合を除く。)。
農業法人の従業員等です。
③新規参入者
調査期日前1年間に土地や資金を独自に調達(相続・贈与等により親の農地を譲り受けた場合を除く。)し、新たに農業経営を開始
した経営の責任者及び共同経営者。
こちらがゼロから農業を始めるパターンです。
同じ新規就農者と言っても跡取り、雇用、起業と、状況は全く異なります。
では実際、どのくらいの方が新規就農者として農業をされていると思いますか?
平成27年新規就農者調査では、新規就農者は65,030人。
6万人って聞くと多い気がしますよね。
2016/7/24付の日本経済新聞を見ると、こう書いています。
農業に従事する人が減り続けている。農林水産省によると、2016年2月時点で約192万人となり、現行基準になった1995年以降で初めて200万人を割った。前年より8%、95年より5割ほど少ない。担い手のほぼ半分を占める70歳超の高齢者の離農が進み、若年層との世代交代もみられない。
つまり、入ってくる人よりも辞める人の方が多いということです。
実際に僕らの地域でも農家戸数は減少の一方で、新規就農者の確保は非常に大きな問題となっています。
求められているはずなのに減り続けている農家。
あ、話がずれました。。。
この記事で注意したいポイントは≪若年層との世代交代もみられない≫という一文です。
平成27年度の新規就農者を年代別でみてみると、49歳以下は23,030人。
つまり新しく農業を始める約2/3の方が50歳以上。
セミリタイヤもしくは定年退職後の方々によって、かろうじて日本の農業人口は維持できていることがわかります。
では更に、高校や大学を出てから就農された方ってどのくらいいるのでしょうか?
27年度の統計では、29歳以下の新規就農者は8,790人。
そのうち
①新規自営就農者・・・3,920人
②新規雇用就農者・・・4,260人
③新規参入者・・・・・620人(少なーーーーー!!!)
また、新規就農者就業状態調査によると、畜産を経営している新規就農者の割合は全体の4.8%。
(畜産の新規就農は初期投資が非常に高いため、参入へのハードルが非常に高いのが特徴。)
29歳以下の新規参入者620人の4.8%を計算すると。。。。。。。。。30人っす。
※(新規就農者就業状態調査は最新のものが平成19年のデータのため、この数字はあくまで参考イメージだと思ってくださいね。)
つまり、
卒業後の就職先として畜産業を見た時、ゼロから始める新規参入は非常に狭き門であるという事です。
数字を見ると、なんとなくイメージできますよね。
それでも夢を見る学生
それでも、「新規参入で牛飼いをはじめたい!!」という人は多い。
僕もそうでした。
小さい頃から動物が好き。
将来牧場経営が出来たら最高だよなと、北海道の酪農学園大学に入学した僕。
数ある部活動の中で僕が選んだサークルは【肉牛研究会】という華やかなキャンパスライフとは全く無縁のサークルでした。
土日は作業で休みなし、3週間に1週間は牛舎に寝泊まりの当番、人工授精から子牛の育成、牛舎建設や肥育した牛の精肉販売まで。
畜産業界のすべてを学生だけで運営するサークルでした。
このサークルにはたくさんの意識の高い学生が集まっていました。
獣医学部や農家の跡取りは別として、新規参入で牛飼いをしたいという学生が多かった。
しかし実際には新規参入で畜産農家として生計を立てているのは、僕の知る中で4~5人しかいません。
僕より明らかに有能で、やる気のある先輩方が牛飼いをあきらめる姿を僕は見てきました。
新規就農を目指すに当たり、推奨されているステップがあります。
僕も含めたみんなが通るこのステップ、畜産に関して言えばこの就農までのステップは全く当てにはなりません。
一般的に言われている、新規就農までのステップ
新規就農者の確保は国の重要政策でもあり、非常に優遇された融資や補助制度が整備されています。
しかし、これを使うほとんどのケースが新規自営就農者(農業後継者)です。
新規参入者はそのステージに立つこと自体が非常に難しい。
一般的に言われている就農へのステップを見てみましょう。
(こちらの画像は青森県の農林水産部のHPからお借りしました。)
一見なるほどと思ってしまいますが、畜産の新規参入はこのステップではうまくいきません。
学生が畜産業を志すケースの場合、就農準備の項目の一番最初である③【農業体験・基礎知識の習得】が大学や農業大学校にあたります。
この時点では技術、お金、知識、人脈、土地、経験など何もありません。
ここから⑩までたどり着いて初めて国の制度資金を利用することができます。
よく「こんないい補助制度があるんですよね!!」って聞かれる方がいます。
「補助金活用するためにはこうした方がいいですよね」とか。
⑩からスタートできる新規自営就農者ならそういう視点で動けばいいです。
しかし、新規参入者は④です!!
とにかくひたすら④です!!!!!
そのため多くの方が大学を卒業すると、夢を持って農家や農業法人に就職や研修に約2年入ります。
研修を通して技術、お金、知識、人脈、土地、経験を得ようとする。
畜産、水稲、果樹、大豆、露地野菜など、業種に限らずほぼ全ての新規就農希望者がこのステップを踏みます。
でもね、畜産の場合、初期投資額が他の業種に比べてけた違いに大きい。
たった2年で得れることなんて限られています。
良い条件の農業法人で初任給15万円もらえたとします。
生活費を差し引いて5万円の貯金が出来たとして、12か月で60万円。
2年務めても120万円です。
畜産の中でも比較的初期投資の低い和牛繁殖経営であっても、50頭揃えようと思えば5,000万円は必要。
120万円なんて、就農した年の1年の生活費で消えてします。
初期投資額の足しにも、運転資金にすらもならない。
技術も知識もある程度は習得できても実際に自分で経営しないことにはわからない部分は絶対あり、限界がある。
つまり、2年間研修しても『どうやったら牛飼いになれるかわからない』にしかならないのです。
そこで諦めて次の道を探す方がほとんど。
気持ちのある方はそれでもあきらめきれなくてもう2年、さらにもう2年研修を重ね、可能性を模索する。
だけどどうしてもお金が足りない。
気が付けば大学卒業して6年、再就職先も限られてくる。
各々が納得して選んだ道とは言え、僕よりも能力の高い諸先輩方が苦難の道を歩かれるのを見て「牛飼いなんて僕には絶対できない」って思いました。
普通で考えると無理って思っちゃいますよね。
だけど、無理って決めたらやっぱ無理なんですよね。
ステップの先には就農がある。
確かにこれは一つの正解でもあります。
ただ、ステップを超えていくにはそこにいるだけではダメ。
自分で模索するのはもちろんのこと、人の助けや運も必要です。
後編は僕がこのステップを超えるにあたって、大切だと思ったポイントを書いていこうと思います。
(つづく)