最終更新日2019.1.13 17:26
育むのは牛、死なすのは人。
先日、予定日より1週間早いお産があった。
すでに部屋は満室。
陣痛がきてるのでのんびりしている時間はない。いつも僕はギリギリだ。
牛は強いからそうそう死んだりしない。
でも、ちょっとしたズレで死なせてしまうこともある。
陣痛だね。予定日より早いけど今日あたりな気がしてた。急いで牛達を移動して産室の準備です。夕方には産まれてるかな。。。 pic.twitter.com/4y6jPDKUor
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) February 25, 2018
まずは産室を作るために牛たちの大移動です。
親牛は鼻を持てば簡単に移動できる。
450kgの親牛も鼻木があるとコントロール出来る。体の先端にある鼻は牛の動きの起点。向かってくる力をいなして牛を抑えます。この鼻木から耳の後ろに一周させている紐を千筋と呼び、大きく動いた際に顔全体に力を逃す役目があります。鼻だけ引っ張ると、痛みでパニックになる子もいるからね。 #牛ネタ pic.twitter.com/d15OGlNefr
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) February 25, 2018
一番動かないのは生後半年くらいの子牛。
反抗期だね。僕なんて簡単に引きずられてしまう。。。
体重800キロの牛の脚を持ち上げて蹄を切ることはできる。だけど生後半年の子牛を引っ張って移動するのは至難の技。180キロもあるからね。稀勢の里より重い。 #牛ネタ pic.twitter.com/KJQ4pmGxTr
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) February 25, 2018
小さな子牛はロープで引っ張ると転けてしまう。だからダッコでダッシュ。
生後半年の子牛(180kg)には負けるけど、1週齢なら負けないし!!! # 30kg #牛ネタ pic.twitter.com/m7DnN2BIOu
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) February 25, 2018
めんこいっしょ。。。笑
陣痛が来ているお母さん牛を産室に移動するため、元々産室にいた赤ちゃん牛達を移動します。お母さんはロープでつないで。赤ちゃんは抱っこして。赤ちゃんといえども30kg以上あるから重いのよ。でも県外産、但馬牛じゃない黒毛和種はもっと大きいんだ。なすがまま抱えられる子牛にキュン。 pic.twitter.com/SGjAlHGcUv
— 田中あつみ 但馬牛飼い精肉店【田中畜産】 (@tanatiku) February 25, 2018
ステージで大きさも性格も全然違う牛たち。
ついつい僕が育んできたと思ってしまう。
でも違う。
成長したのは牛自身、僕は側にいただけだ。
生まれるときに死んでしまうのは牛のせいじゃない
お産とは病気ではない。
基本的には人の介助はいらないものです。
しかし、何があるかわからないのもお産。
昨年末はこんなことがあった。
「蹄は上を向いて逆子に見えるけど、これ、前足だ。。。イナバウアー?いや、頭がない。。。やばい、胎盤が剥がれてきてる。どうなってんだよ!!子牛が窒息してしまう。やばいやばいやばい。。。」
頭位の側胎向に側頭位が合体した感じの体位だった。
顔の位置は分からないし、ようやく見つけたら鼻は産道と反対、お腹は上向き、子牛はデカすぎ。
絵じゃ伝わらないけど、とても自然分娩では出なかった。
結局無理やり押し込んで顔を直して身体の向き変えて引っ張ってなんとか無事に出すことができた。
一方、この子は「スタンダードな逆子」だった。
逆子と聞くと大変な気がするが、タイミングさえ間違えなければ難産にならないことも多い。
子牛が小さいおかげでするりと出た。
でもあの時昼寝していたらアウトだったかもしれない。。。
あぶねーーー!!逆子でした。気づいてよかったぁぁぁーーー!!!予定日より早かったので子牛も小さく、するりと出てくれました。あと4日で子牛の死亡事故ゼロが17ヶ月目に入る。偶然に助けられてる部分は多いけど、全部味方にして進んでいきたいな。 pic.twitter.com/POGb7QNBJy
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) February 25, 2018
生まれてくるまで育むのは母、生まれてきてからは子牛自身。
牛は自ら命を絶つことはしないから、もしその過程で牛が死ぬのなら、それは牛のせいじゃない。
育むのは牛、殺すのは人
牛の出産をSNSに投稿すると非常に反応がいい。命を扱う立派な仕事に見えるんだと思う。でも、書いてきた通り僕は何も扱っていない。
子牛は母牛が胎内で育てる。そしてそれと同時に子牛自身が成長していくもの。
僕は部外者だ。
畜産は生かし殺す仕事。
そういえば少し聞こえはいいけれど、屠畜まで死なせないのが僕の仕事なのかもしれません。
死ぬリスクを抱えても高品質を目指すという考えもあるけどね。
でもどちらも同じような気がしてる。
育むのは牛自身の力、死なせるのは管理者の責任。
奇形などの先天的なものも含めてそう思う。
今日の子は生後30分で乳を飲んだ。逆子もタイミングを間違わなければ普通のお産だ。慌てず向きを確認して即介助。無理ならすぐに獣医師を呼ぶ。大切なのは何でも一人でやろうとしないこと。事故ゼロが続いてるのは僕の介助の上手さじゃない。自分じゃムリと諦める引き際の良さだと思ってる。 #牛ネタ pic.twitter.com/3tOsCvNhsV
— 田中一馬 但馬牛農家の精肉店・田中畜産 (@tanakakazuma) February 25, 2018
この子は引っ張り出して30分で乳を飲んだ。
それは僕の介助ではなくこの子自身の力。
そこを誤解しないようにしたいな。
気がつけば子牛の死亡事故ゼロが17ヶ月目に入った。
偶然に助けられてる部分は多いけど、それら全部を味方にして進んでいきたい。
いろんな失敗をしてきたから思う。
こんな当たり前がありがたいってね。